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『スティーブ・ジョブズ』(2015)ダニー・ボイル監督 単独インタビュー(2/2)

第88回アカデミー賞

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■テクノロジーの進歩も潜在的に映し込む

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第1幕より、アンディ役のマイケル・スタールバーグ、ジョブズ役のマイケル、ジョアンナ役のケイト・ウィンスレット - (C) Universal Pictures (C) Francois Duhamel

Q:3つの時代に分断されているのに編集が巧みだと思いました。

この映画は見事に編集されているね。多くの人が編集はアクション映画のものだと思っているから、この映画の編集に着目する人は少ない。でもこの映画の編集がすごいのは確かだ。サンフランシスコ出身のエリオット・グレアムという若者が編集したんだけど、この作品で彼はセリフに対して編集しなくてはいけなかった。膨大なセリフが続く中で、にわかに盛り上がるところが極端に少ないんだ、だからここぞというところで転調するしかなかった。

Q: ジョブズの映画でありながら、アーサー・C・クラーク(「2001年宇宙の旅」などで知られるSF作家)の映像で始まるのが印象的でした。

エリオットはそれぞれの時代を映す鏡のように当時の映像を挟んだ。彼がアーサーの素材を見つけたんだ。この映画を観る多くの人が、かつてのコンピューターがどのようであったかを忘れてしまっている。それは電源を入れるためだけでも機械で部屋がいっぱいになるようなものだった。今ではそれがポケットに入るような時代だ。だからこれからテクノロジーの発展が絶大なプロセスを経ていくことになるというサインでもあるのと、将来を見据えた天才はジョブズだけじゃないということを僕たちが示す意味でも大事だった。

Q: 3つの時代を描くのにこだわったことはありますか。

さっきも言ったように、同じキャラクターに、同じシチュエーションだから、できる限りそれぞれの時代を差別化しようって考えた。だって、第1幕と第2幕の間はたったの4年だけだし、第2幕と第3幕の間は10年だ。時代の違いを強調しようと、まずは異なる劇場を選んだ。最初の劇場はとても機能的、2番目のはとても装飾的、彼が復讐するシーンに合うようにね。3番目のはモダンな感じ、時代は1998年だからね。将来を予期させる感じというか、iPadやiPod、それにiPhoneといった洗練されたプロダクトラインのように。彼は美しいプロダクトラインをいつも望んでいたから、彼の内面も表現できることになると思った。

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第2幕の舞台にて - (C) Universal Pictures (C) Francois Duhamel

Q: 時代ごとに撮影フォーマットも変えたそうですね。

それぞれの時代を差別化するのに、登場人物の衣装や外見などにも力を入れて、さらには違うフォーマットでも撮影しようってなった。1998年において、デジタルでの撮影は一般的ではなかったけれど、デジタル化される未来に向かってこのストーリーは進むわけだから、第3幕をデジタルカメラで撮影するのはふさわしいと判断した。デジタルの鮮明さと純度の高さが第3幕には必要だった。そして遡って、第1幕は16ミリフィルムで撮影したんだ。手作り感があって、ガレージロックバンドのようにパンク的な感じだ。そして第2幕で使われたのは、35ミリフィルムだ。映画界で重宝された、優れたストーリーテリングの道具だよ。今回使ったものの中でも、流れるように美しいフォーマットだ。悲しいことに35ミリフィルムは廃れていっているけどね。

でも、このフォーマットの違いに気が付く人はほとんどいないと思う。潜在意識的な感じで、違いを実感することはなくても、確かに違いは存在しているというようなものだ。だけど、今僕たちがいる現代に向かってこの映画のストーリーは進んでいる。どっちが鮮明か、きれいかっていう質問は限りがなくて、4Kか8Kか、その解像度を何と呼ぼうとも、今の時代じゃ全てが明瞭だ。だからこそ、昔の異なるフィルムを使ってその時代を反映させつつ、鮮明さを求めてテクノロジーが進んでいく様も表現したかったんだ。

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取材後記

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ボイル監督、本作のキャスト、ケイト・ウィンスレットと一緒に - (C) Universal Pictures (C) Francois Duhamel

質問ごとに、この映画のキャスト・スタッフを褒めちぎるボイル監督。ふと、劇中でのジョブズのセリフが頭をよぎる。「ミュージシャンは楽器を演奏する。わたしはオーケストラを演奏する」。いまここで話をしているボイル監督もまた大勢のスタッフを指揮する天才なのだ。ただ、天才と称えられながらも、周囲の功績を認めず衝突が絶えなかったジョブズに対し、ボイル監督はひたすらスタッフを労うというように、真逆の天才2人がこの作品で交わっているというのもまた興味深い。

取材・文:石神恵美子

映画『スティーブ・ジョブズ』は2月12日より全国公開

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