略歴: 日本大学芸術学部映画学科卒、同学部大学院卒。映画・海外ドラマのライターとしてキャリア30年。TVガイド誌やオンライン情報サイトなどを中心に幅広く執筆活動中。雑誌「スカパー!TVガイドBS+CS」(東京ニュース通信社刊)で15年続くコラム“映画女優LOVE”をはじめ各テレビガイド誌で特集記事やコラムを執筆。著書は「ホラー映画クロニクル」(扶桑社刊)、「アメリカンTVドラマ50年」(共同通信社刊)など。海外取材経験も多数。旧ソ連のモスクワ育ち。
近況: 目下のところBabyMonsterとTXTにドハマリ中。まさか高校生の姪っ子と推しが被ることになるとは…(^^;
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かつて大林宣彦も映画化した山田太一の小説「異人たちとの夏」をイギリスで再映画化。監督自身の経験を投影すべく、主人公の設定も「中年の独身ゲイ」に変更している。30年ぶりに再会した両親の亡霊。その間に社会の価値観が激変したことを両親は知らない。そんな彼らが今の自分をどう思うだろうか、もしかして失望するのではと心配する息子。一方の両親もまた、自分たちは良い親だったのか、息子の悩みも知らず無自覚に傷つけていたのではと自問自答し、その両者の葛藤が普遍的な親子の愛と絆を浮かび上がらせる。大林版と違ってホラー要素を排したのも大正解。なんとも切なくて哀しくて、それでいて温かくて優しい幻想譚に仕上がった。
プリシラ・プレスリーが元夫エルヴィスとの関係を赤裸々に記した回顧録を、そのプリシラ本人を製作陣に迎えてソフィア・コッポラ監督が映画化。まだ14歳の少女に恋愛感情を向けるマザコンの24歳という時点で危険信号だし、実際に結婚後はモラハラ夫ぶりを発揮していくエルヴィスだが、しかし人生経験が浅い思春期の未熟なプリシラは、憧れのスーパースターとの夢のようなロマンスに盲目となってしまう。まるで籠の中の鳥だった彼女が、ひとりの人間としての自我と誇りに目覚め、自由を求めて羽ばたいていくまでを描く若い女性の成長譚。コッポラ監督らしいガーリーなキラキラ感にも風格が加わり、映像作家としての円熟味を感じさせる。
8歳の娘リンダから「死んだパパの得意料理パプリカ・チキンを食べたい!」と要求された母親ポレット。ところが、運悪くストライキでどこの商店も閉まっていたことから、食材のチキンを手に入れるため母と娘の奇想天外な大冒険が始まる。実写ドキュメンタリー出身のキアラ・マルタ監督が、自分の子供に見せたいアニメがないからと、アニメ作家である夫セバスチャン・ローデンバックとタッグを組んだ作品。郊外の団地に住む貧しいシンママ家庭の日常を題材にしたリアルで社会派的な視点と、アニメでしか成し得ない自由で独創的で躍動感あふれる映像表現の見事なバランスは、そんな夫婦の共同作業の賜物なのだろう。大人も必見である。
高級リゾートのインバウンド消費に経済を頼り切っている架空の国。現地では権力が腐敗して一般市民が困窮する一方、リッチな外国人観光客たちが傍若無人に振る舞っている。そんな国を初めて訪れた夫婦が、一部の観光客と地元警察が裏で結託して身の毛もよだつ恐ろしい「儀式」を行っていることに気付く。金と権力と欲望の三位一体によって、いとも簡単に堕落してしまう人間の醜悪さを描いた作品は古今東西少なくないが、本作はそこへ過激なエロとグロを交えつつシュールで悪夢的なSFホラーへと昇華させたところが秀逸。ミア・ゴスのキレッキレな怪演がまた強烈だ。来るべき日本の近未来像みたいな舞台設定もイヤ~な感じですな。
‘10年にNHKの番組で中国の長江沿いに暮らす人々を取材した竹内亮監督が、それから10年以上の時を経て同じ道程を辿り、かつて知り合った人々を訪ね歩くドキュメンタリー。もはや「10年ひと昔」なんて生易しいものではない、中国社会の急速な発展と変化にビックリ。なるほど、日本なんかあっという間に追い越されるわけですよ。そのうえで、若者に忌避されて高齢化が進む肉体労働者、近代化に伴って故郷も伝統も捨てた少数民族、反対に近代化を上手く取り入れながら伝統を継承する少数民族など、激動の時代に生きる市井の人々の素顔を活写する。中国の懐の深さ、スケールの大きさ、そして圧倒的な美しさ。今すぐ行きたくなりますな!