平沢 薫

平沢 薫

略歴: 映画ライター。視覚に訴えかけるビジュアルの派手な映画がお気に入り。「SCREEN」「SCREEN ONLINE」「Movie Walker」「日経エンタテインメント!」「DVD&動画配信でーた」「キネマ旬報」「SFマガジン」「映画.com」等で執筆。他に「キングスマン:ゴールデン・サークル」ノベライズ、「グレートウォール」ノベライズ、「X-ファイル 2016」ノベライズ、「フランケンウィーニー」ノベライズ、「「ターミネーター:新起動/ジェニシス ビジュアルガイド」翻訳など。ウェブで映画やTVドラマのニュースを追いかけ中

近況: スティーヴン・ザイリアン監督のミニシリーズ「リプリー」@Netflix を視聴中。滑らかなモノクロ映像は、すべてのショットが、ヤリすぎなくらいキメキメの構図で、ひれ伏すばかり。

平沢 薫 さんの映画短評

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  • 殺人鬼の存在証明
    実在の殺人鬼を下敷きに、重層的な物語を描く
    ★★★★★

     1987年から1991年のロシアがソビエト連邦だった時代、ある刑事が36人の女性を殺害した連続殺人犯の捜査にのめり込んでいく。犯人の人物像は実在の連続殺人犯アンドレイ・チカチーロを踏まえており、捜査指揮官の名前イッサも共通だが、よくある捜査に溺れていく刑事ものとは少々異なり、それ以外の要素が多い重層的な物語が魅力。

     刑事の前には警察組織の闇が立ち塞がり、それが彼を蝕んでいく。逮捕した犯人には誤認逮捕の可能性が生じて、彼が真犯人なのか確信が持てなくなる。そしてその背後に、もうひとつの予期しなかった物語が浮かび上がってくる。その背後で北の森はどこまでも暗く、室内の空気はいつも湿って暗い。

  • キラー・ナマケモノ
    ダジャレから生まれた?爆笑ホラーコメディ
    ★★★★★

     原題Slotherhouseは、Sloth(ナマケモノ)とSlaughterhouse(屠殺場)を掛け合わせた造語。それを登場人物がセリフで言って周囲がゲンナリするというシーンがあり、本作はきっとこのダジャレを思いついたから製作されたんじゃないかと思わせる。そういう、ゆる~い感じが醍醐味の殺戮アニマルvs女子高生コメディ。

     ナマケモノはパペットであることを隠そうともせず、リアリズムとは無縁。ナマケモノがスマホを使ってSNSを悪用したり、自動車を運転したりする。そこに、窓から転落したと思ったら覗き込むと姿が見えないなどの、ホラー映画へのオマージュも続々。徹底的に明るい色調と雰囲気も楽しい。

  • 悪は存在しない
    気づくと、息をひそめて画面に見入っている
    ★★★★

     カメラが、そこで起きていることに耳を澄ましている。その出来事が語りかけてくることを、聞き逃すまいとしている。1シーンが長く、手持ちではなく定点に固定されたカメラは、何かにズームすることなく、レンズの前にあるものを静かに撮り続け、そこで生じる音、人々の会話を録り続ける。気づくと、こちらもカメラ同様、息をひそめて、目の前で起きていることに見入っている。

     厳しい自然と共存して生きる人々の土地に、開発業者がやってくるが、経営者は補助金が必要なだけで、説明に来た社員2人も仕事をしているのみ。悪意はなくても取り返しのつかない事態は起きる。まだ雪の残る高原の冷たく清澄な大気が胸に沁みる。

  • システム・クラッシャー
    リアルな手触りが、ドキュメンタリーかと錯覚させる
    ★★★★★

     9歳の少女ベニーは、自分の感情が制御できず、暴力的で身勝手に行動し、彼女に好意的な里親や支援施設職員も、彼女を受け入れられなくなる。そんな状況をドキュメンタリーと見紛うリアルな映像で描き出す。監督・脚本のノラ・フィングシャイトは、ホームレス女性のドキュメンタリー撮影中に出会った14歳の女性から本作を発想したという。

     人間の心理は年齢に関係なく複雑で、自分自身にも扱い難い。そんな彼女に周囲は何ができるのか。彼女にとって何が幸いなのか。投げかけられる問いは奥深いが、冷気の中に溢れる光と、9歳の少女が発する強烈なエネルギーが、ほのかな希望を感じさせる。

  • ゴジラxコング 新たなる帝国
    主人公は人間ではなく、巨大モンスター自身
    ★★★★★

     アダム・ウィンガード監督による巨大モンスター映画の魅力は、主人公が人間ではなく、モンスターが主人公の物語を描いていることにある。その中で、モンスターが自分の力を発揮する時に感じている喜びも表現される。本作ではコングが何度も大きな跳躍をするが、そのたびに、彼がそれを気持ちいいと感じていることが、画面から伝わってくる。コングとゴジラが膨大な数の建造物を破壊する光景が見ていて気持ちいいのも、彼らの快感が伝わってくるからだろう。

     監督が好きな60~70年代のゴジラ映画に寄せて、色調は明るく鮮やか。今回もイースターエッグは山盛り、バッドフィンガーなど懐かしのポップソングの数々も楽しい。

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