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ファントム・スレッド (2017):映画短評

ファントム・スレッド (2017)

2018年5月26日公開 130分

ファントム・スレッド
(C) 2017 Phantom Thread, LLC All Rights Reserved

ライター6人の平均評価: ★★★★★ ★★★★★ 4.5

清水 節

見えない糸で結ばれた男女の、支配と依存が反転する歪んだ愛

清水 節 評価: ★★★★★ ★★★★★

 導入は、ドレス作りに取りつかれた狂気のデザイナーによって見出される、凡庸な女性がミューズへと変わりゆくシンデレラストーリー。50年代英国オートクチュールの端正な美術と華麗な衣装ばかりに眼を奪われていてはならない。全てを統制したい男と従属に甘んじていた女の関係が、次第に変容していくプロセスこそが神髄だ。独善的な男に対し、非力な女は“毒を以て(盛って)毒を制す”。支配と依存が反転するスリルと快楽。優しさや慈しみや思いやりだけが愛の形ではないことを、2人を結び付ける“見えない糸”が教えてくれる。「歪んだ愛」と呼ばば呼べ。たとえ屈折していようとも、互いに求め合う強度に魅了され、愛の多様性を実感する。

この短評にはネタバレを含んでいます
くれい響

P.T.A.が”仕立て屋の恋”を撮ってみた。

くれい響 評価: ★★★★★ ★★★★★

後を引くオチも含め、まるで良質な短編小説を読んだときのような感触だが、尺的には130分。それでも長尺を感じさせないのは、さすがP.T.アンダーソンの力量。『レベッカ』『めまい』など、ヒッチコック作品のゴシック・ロマンの系譜を感じさせながら、すべてが計算された完成度の高さはキューブリックの域まで達する。息を呑むほど、美しくも恐ろしいシンデレラストーリーで魅せる、ダニエル・デイ=ルイスの圧倒的な存在感。オスカーは逃したものの、自身にも重なるこだわりの職人役で、俳優として有終の美を飾ったことに、誰も異論を唱えないだろう。にしても、日本で『恋は雨上がりのように』と同時公開されるのは、ちょっと面白い。

この短評にはネタバレを含んでいます
平沢 薫

絹の手触りにフェティッシュな悦楽が宿る

平沢 薫 評価: ★★★★★ ★★★★★

 ざっくりまとめると、長い年月をかけて自己完結したつもりになっていたオタクが、想定外のところからその完結を崩されそうになるが、そうなってみたらそれも意外と悪くなく、完結したままでその悪くない状態も味わうことを考え、その結果陥る状態は第三者から見たら変態なのだが、本人は満足する。そういう話。思い当たる節のある人なら、見ないわけにはいかない物語だ。
 魅惑的なのは、1950年代のファッションデザイナーであるそのオタクが彼の完璧な世界の具現化として縫製させる衣装の数々。その優美さは50年代のバレンシアガ風。厚手の絹の冷たい手触り、縫い糸の繊細さを捉えた映像がフェティッシュな悦楽を与えてくれる。

この短評にはネタバレを含んでいます
森 直人

PTA初の「男脳・女脳」系映画ですよ!(もちろん傑作)

森 直人 評価: ★★★★★ ★★★★★

なんと英国の物語!ってのはある種隠れ蓑で、実のところコレは最もP・T・アンダーソンの「自分語り」に近いのでは? 孤高のオートクチュール職人、完璧主義者のデザイナーが主人公だが、顧客がいてナンボという商業性との兼ね合いが映画監督の仕事に共通するとアンダーソンは語っている。そして理想的なミューズとして迎えたモデルが「普通」の女子だっていうジレンマ!

ウケたのが「サプライズ」をめぐる相違のエピソード。そりゃもう哲学者カントの日常に爆弾を落とすようなものだろう。オタク男と世俗パワー全開妻の痴話げんかを異常な緊張感で『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』のヴァリエーション的な主従関係劇に仕立てる腕は圧巻!

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斉藤 博昭

上質なベルベットかシルクの肌ざわり感。オスカー候補も納得

斉藤 博昭 評価: ★★★★★ ★★★★★

P・T・アンダーソン監督のここ数作の中では、ひじょうに感情移入しやすい作品。もちろん彼の作品なので、主人公たちの性格は、かなり屈折しており、言動が極端だったりするのだが、その「気持ち」がすんなり理解できるのは、端正な映像美と、細かい動きまで工夫が伝わるオスカー俳優の演技が、様式的にハマっているからだろう。

何と言っても素晴らしいのは、音楽だ。映像と演技を引き立て、観る者に快感を誘うメロディとリズム。これぞ、映画音楽の見本! いや芸術の見本! 音楽が途切れることで生まれるストーリーの緊迫感も尋常ではない。音楽はエンドロールまで計算されており、極上のひとときを過ごした余韻に浸る。

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猿渡 由紀

見た目に美しいが、それだけではない

猿渡 由紀 評価: ★★★★★ ★★★★★

ダンディなクチュールデザイナーに目をつけられた若いウエイトレス。仕事に恋するナルシストの彼は、結婚しない主義だと宣言している。しかし、一見、無垢で無邪気な彼女の中では、どうしても彼を自分だけのものにしたいという思いが密かに募っていた。その執着は恐ろしく、同時にややコミカルで、共感もできる。舞台は50年代の上流社会。ゴージャスなドレスやご馳走が次々に登場するビジュアルは美しいが、それだけで終わりの薄っぺらい映画では決してない。成功者だが人間的に欠陥もある主人公を、ダニエル・ディ=ルイスが名演。本当にこれが彼の最後の映画ならば、とても悲しい。

この短評にはネタバレを含んでいます
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