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山下智久、愛を語る 「まだわからない部分がたくさんある」

山下智久
山下智久 - 写真:TOWA

 『私の頭の中の消しゴム』のイ・ジェハン監督の新作『SEE HEAR LOVE 見えなくても聞こえなくても愛してる』(Prime Video で独占配信中)で、約6年ぶりに王道ラブストーリーに身を投じた山下智久。次第に目が見えなくなる病を患った漫画家(山下)と、生まれつき聴覚障害のある女性(新木優子)の愛の行方を追う本作を通して多くを学び、“真実の愛”についても思いを巡らせたという。山下が愛を語ると共に、10代を振り返りながら「スリルを求めている」という今の仕事論について明かした。

【画像8枚】山下智久インタビュー撮りおろし

『私の頭の中の消しゴム』を観て号泣

 電子マンガ・ノベルサービス「ピッコマ」で100万以上「いいね」を集めた NASTY CAT の人気ウェブ漫画を実写映画化した本作。視力が失われていく漫画家・真治を演じた山下は「とてもチャレンジングな役でした」と切り出し、「目が見えない男性と、耳の聞こえない女性のラブストーリー。僕自身、“この二人がどのように愛を育んでいくのか”ということにとても興味がありました。またもともとイ・ジェハン監督のファンだったので、監督とディスカッションを重ねることでどのようなものづくりをしていけるのか、この役を通して学びを得られるのではないかという期待もありました」と本作に惹かれた理由を話す。

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 実はジャンルとしてこれまであまりラブストーリーを観てこなかったという山下だが、「本当に偶然なんですが、そんな僕でも『私の頭の中の消しゴム』(2005)を観ていて。いろいろな壁がありながらも、主人公二人の思いが交差していく瞬間に心が震えて、ものすごく泣きました。だから今回は、とても運命を感じたんですよ!」とにっこり。当初抱いていた予感は的中し、イ・ジェハン監督とのタッグは実りの多いものとなった。

 山下は「僕が経験してきた中でも、衣装合わせに最も時間をかけた作品です。イ・ジェハン監督は衣装一つとっても、生地や色味など細部までこだわりを持っている。物理的なことからも役づくりをしていく過程を体感できました。また小物を撮影する時にも長い時間をかけるなど、細かい部分が持つ力を知っている。そんな監督との仕事を通して、僕自身これまで見落としてきたようなものにも目を向けられるようになったのではないかと感じています。監督に視野を広げてもらった」としみじみ。さらに「いろいろなアプローチを提示してくれる」と続け、「イ・ジェハン監督は、一つのシーンに最低5回はテイクを重ねます。監督、僕、新木さんの視点など、いろいろなものが混ざり合っていくことでまた(作品の)色味が変わっていくことを感じられた」と充実感をにじませる。

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愛とは、自分よりも大切な相手に出会うこと

『SEE HEAR LOVE 見えなくても聞こえなくても愛してる』より真治(山下)と響(新木)(C) 2023「SHL」partners

 真治は、恋人である響の姿を目にすることができないが、彼女を心から愛していく。魂でつながっていく彼らを通して、“真実の愛”について考えたことも多かったという。

 山下は「愛って目に見えないものだし、僕もまだわからない部分がたくさんあります。真治と響を見ていると、なにか強力な接着剤のようなものがあって、二人の思いがバシッと重なった時に愛が生まれるのかなと感じました」と吐露。目が見えなくなり、漫画を描けなくなることに絶望する真治。そんな彼を必死で支えようとする響を思い出しながら、「みんな自分のことは大切にしていると思うけれど、誰かを守ってあげたいという気持ちや、自分よりも大切だと思えるものに出会えた時に、愛が生まれるのかな」と思いを巡らせる。

 真治と響の交わす無償の愛は、本作のラストを飾る山下が歌う主題歌「I See You」にもたっぷりと注ぎ込まれた。「撮影が終わってから制作が行われたので、僕も真治のDNAを楽曲に込めることができました。監督や作詞家、作曲家の方とも細かく打ち合わせをしながら、歌詞も何パターンも推敲して。“僕の血の流れにあなたを乗せて運ぶ”という意味合いの歌詞も出てきますが、その部分は特に真治と響の愛にリンクしているなと思います」と楽曲に胸を張りながら、「エネルギーを注いでものづくりに打ち込む韓国チームとの仕事で、僕もその情熱をわけてもらったような気がしています」と俳優、そしてアーティストとしても大いに刺激を受けた様子だ。

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若い頃はハングリーだった

写真:TOWA

 絶望の淵に立ちながらも、真治は響との出会いを通して“諦めない心”を呼び覚ましていく。山下は「真治は苦労を重ねているタイプで、もがきながら漫画を生み出し、読者に届けていこうとしている人間。僕自身、あまり苦労を知らない若い頃ではなく、いろいろなもがきを経験した今の年齢だからこそ、演じられる役だったのかなと思います」と告白する。

 キャリアを重ねる中では「いろいろな壁にぶち当たって、諦めそうになったこともある」と打ち明けた山下だが、独立前には「若い頃は、男社会でライバルがたくさんいる中で、常に競争していたような気がします。周囲のみんなは仲間だけれどライバルでもあって、その中でどうにか勝ち残ってやるという気持ち。ハングリーでしたね。でもみんながいたからこそ、もう一回立ち上がろうという気持ちにもなれた」と自分一人ではここまで辿り着けなかったと感謝しきり。

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 国内外へと活躍の場を広げ、38歳となった今の原動力は、「監督やキャスト、クルーとのいい出会い。より良いものを作りたいという思いが強く、それは僕の生命力だと感じています」とキッパリ。仕事に臨む上で意識しているのは「粘り強さ」だそうで、「例えば、NBAで成功した人といえばマイケル・ジョーダンが思い浮かびますが、同時に多くの失敗もしているんですよね。僕自身、“失敗しても諦めずにやり続ければ、成功につながる”という哲学のもとで仕事をしているような気がします」と持論を述べる。

 「失敗を怖がることもあまりありません。僕、普段はギャンブルを一切やらないんですが、作品や役柄に関しては賭けるというか、チャレンジングな方が好きなタイプで。ついつい“これは大変だろうな”と想像がつくものほど、やってみたくなる。スリルを求めているようなところがある」と楽しそうに語る山下。「リスクを取らなければハイリターンもない。例えば、以前(『今際の国のアリス』で)ヌーディストを演じたんですが、ぶっ飛んでいるしチャレンジングな役柄だけれど、ちょうど前の事務所から旅立った頃だったので“裸一貫でやろう”と思って。ダジャレなんですけれど」と笑いながら、「この仕事は辛いこと、大変なこともたくさんある。だからこそ、そういった遊び心も忘れずに、真摯に取り組んでいきたいです」と晴れやかな表情で語っていた。(取材・文:成田おり枝)

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