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現代社会のゆがみを描いた衝撃作!『飢えたライオン』の緒方貴臣監督を直撃

プロデューサー・脚本・監督を兼任した緒方監督
プロデューサー・脚本・監督を兼任した緒方監督

 現在開催中のニューヨーク・アジア映画祭で、インターネットやメディアの報道がもたらす影響力を訴えた日本映画『飢えたライオン』(9月15日 日本公開)が上映され、6月30日(現地時間)、緒方貴臣監督がニューヨークのリンカーン・センターのエリノア・ブーニン・マンロー・フィルム・センターで単独インタビューに応じた。

【作品情報】『飢えたライオン』

 本作は、インターネット上での中傷やメディアの過熱報道よる現代社会のゆがみを克明に描いた衝撃作。高校生の杉本瞳(松林うらら)の担任が、児童ポルノ禁止法違反の容疑で警察に連行され、担任の性的な動画が出回ってしまう。さらに、その相手が瞳だといううわさが広まってしまい、家族やボーイフレンドからも疑われた彼女は、自殺に追い込まれていく。

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 近年、行きすぎた報道で、報道の対象者を死に追い込んだり、全く異なった人生をその対象者が歩むことになるケースがある。緒方監督は、前作『子宮に沈める』で実際に起きた事件を基に描いたが、今作を製作する上でも、参考になった出来事や事件があったのだろうか。「前作『子宮に沈める』で図らずも事件関係者など誰かを傷つけてしまう可能性を知り、映像や情報の持つ暴力性を身をもって経験したんです。その後、日本で起こった事件の被害者に対する過熱報道を見て、本作の構想を思いつきましたが、当初は社会への問題意識からではなく、個人的な思いがきっかけでした」。監督自身が小学生時代にイジメを受けていた経験も反映されているそうだ。

 長回しのシーンが多く含まれている演出については、「他人の生活をのぞき見することはとても興奮するものだと思うんです。そして、わたしたちはいつも、まるで映画を観るかのように、安全な場所で世界中の悲しいニュースや凄惨(せいさん)な出来事を消費しています。この映画では、登場人物、とりわけ主人公への感情移入を避けるために、シーンとシーンの間に黒味(くろみ)を入れ、またのぞき見しているかのようなアングルで撮影しました」と緒方監督。黒板=スクリーン、生徒=観客と見立て、担任の逮捕劇をショーのようにしたというオープニングのシークエンスは特に印象的であり、生徒と先生の一連の動きを観客に観察させながら、先生の逮捕劇で一挙に引き付けている。

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飢えたライオン
『飢えたライオン』ポスター - (C) 2017TheHungryLion

 自殺に追い込まれていく女子高生・瞳を演じた松林は、良い意味で“女優”っぽくなく、瞳のイメージに近いという理由でキャスティングされたそうだ。肩に力の入っていない彼女の演技は目を見張るものがあるが、その瞳の自殺後がまた、本作の怖い部分である。生徒は受験に集中するよう言われたり、自殺にショックを受けずにまだ中傷している生徒がいたり、先生が出席簿で瞳の名前を飛ばして呼んだりと、事件が徐々に風化する過程が描かれていく。「結局、瞳が死んでも世界は変わらず動きますし、一時的に話題になったことも熱が冷めれば他の話題に移っていきます。わたしたちは、そうやって人の不幸すら消費しているのです。インターネットとSNSの誕生は、その移り変わる速度をさらに速めています」。

 最後に、映画祭での反応を聞いてみると、「ロッテルダム映画祭では『チャイルドポルノ』や『リベンジポルノ』についてと、主に子どもを主体とした質問や感想が多かったように思います。バレンシア国際映画祭とニューヨーク・アジア映画祭では、#MeTooやTime’s Upの世界的な盛り上がりの影響もあると思いますが、女性の人権についての反応が大きかったと感じました」と緒方監督。日本人に向けて作った作品だが、海外での上映を通して、決して日本だけの問題ではないことを実感したそうだ。「本作を観ることで、自分の中にある悪に気づき、考えるきっかけになれば幸いです」と締めくくった。(取材・文・細木信宏/Nobuhiro Hosoki)

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