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子供が映画を通して世界を知る!ちいさなひとのえいががっこうに瞳キラキラ

映画で何ができるのか

スウェーデン編でヨハンナ・オーマンさんのお話を聞く子供たち。可愛いイラストも交えて説明し、子供たちのワクワク心を掻き立てる
スウェーデン編でヨハンナ・オーマンさんのお話を聞く子供たち。可愛いイラストも交えて説明し、子供たちのワクワク心を掻き立てる

 映画好きで知られる俳優・斎藤工は、幼少の頃から国内外の作品に接し「映画を通して世界を知りました」という。その言葉をまんま体現できるような親子上映会「映画で世界一周!知る・観る・楽しむ」が2013年から都内で開催されている。主催は、ボランティアサークル「ちいさなひとのえいががっこう」(以下、“ちいがく”)。代表の岡崎匡氏は「子供たちに映画を通して、世界の文化と芸術への理解を深めてもらうことが目的」だという。世が他人種や異文化に不寛容になっている中、会場を訪れると新たな文化に触れて瞳をキラッキラと輝かせる子供たちの姿があった。(取材・文:中山治美)

劇場は貸し切り!安心して親子で映画鑑賞

フィルムに興味津々
ピーターラビットと仲間たち ザ・バレエ』はフィルムでの上映。デジタル世代の子供たちに取ってフィルムは新鮮。スタッフが機材を扱っていると自然と寄ってくる

 この日のテーマは、2016年の夏季オリンピックで沸いたブラジル。東京・阿佐ヶ谷にあるミニシアター・ユジク阿佐ヶ谷で、第88回米アカデミー賞長編アニメーション部門にノミネートされたアレ・アブレウ監督『父を探して』(2013年・ブラジル)を鑑賞する。

劇場を訪れるとオリジナル・パスポートを手渡され、入国スタンプが押される。スタッフお手製の消しゴム版画で、絵柄が『父を探して』の主人公になっているところが愛らしい。旅気分が盛り上がったところで、いざブラジルへ。

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 『父を探して』は、出稼ぎと称して家族の元を去った父親を探す少年のロードムービー。太陽輝くブラジルの風土を表すかのように、クレヨンや色鉛筆など様々な画材を用いて色彩豊かに描いたアニメーションだ。上映時間は95分。子供が途中で飽きないか? 親ならずとも懸念する長さ。

フィルムで上映
東京・大久保地域センターで行われたイギリス編の様子。フィルムが回る「カタカタカタ……」という音が会場内に心地よく響く

 でも大丈夫。劇場は貸し切り。“ちいがく”では若年層の映画館離れが取りざたされる中、次世代の観客を育もうと「親子で映画館遠足」と題した鑑賞&映画館見学も定期的に行なっており、今回は連動企画でもある。男児を連れて参加した母親が言う。「普段、子供を連れて映画館へはなかなか行けません。それもあって、親子で鑑賞できる今回のイベントに参加しました。上映時間が気になりましたが、最後まで大人しく見ていたので驚いています」。

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親子で同じ映画を観る時間を共有する楽しさ

ポンドに興味津々
イギリス編で講師を務めたパトリシア・大江さんが持参したポンドに、子供たちは興味津々

 鑑賞後は劇場から徒歩で約5分ほどの阿佐谷区民センターへ移動。道中、「男の子がちょっとかわいそうで、悲しくなっちゃった……」など、親子で映画の感想をささやき合う声が聞こえる。同じ時間を共有して生まれる会話が楽しい。

 次のスケジュールは、ブラジル出身のタレント・シモネさんによる「ブラジルのお話」。テーマ国の関係者が講師となり、日本との文化や風習の相違点を分かりやすく解説してくれるのはこの上映会の目玉でもある。これまで取り上げたのはイランを皮切りに、フランス、チェコ、ロシア、北極まで! 2016年末時点で延べ19の国と地域に及ぶ。『クヌート』(2008)を上映した北極編は特異な場所ゆえ北極冒険家の荻田泰永氏、メキシコ編は上映作『ナチョ・リブレ 覆面の神様』(2006)に合わせて、現地でリングに上がっていたプロレスラー松山勘十郎氏が講師を務めたが、基本的には外国人にこだわっているという。岡崎氏が説明する。

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子供にとって外国人と会うのは人生最大級の局面

英国ってどこだ?
イギリス編のパトリシア・大江さんのお話。まずは世界地図でイギリスを探すと…ハイ、正解!

 「映画を観たことと、外国人の方にお会いしてお話を聞いた思い出がセットになって、子供たちの記憶に残ればよいなと思っています。なるべく、敷居を低く、気軽に旅に出られるような上映会を目指しています」。

 そう、子供にとって親以外の大人に話しかけられるのだって緊張するのに、まして外国人と接するとなると、それまでの人生最大級の局面だ。案の定、シモネさんが「オーイ!」(ポルトガル語で『こんにちは』)と陽気に挨拶しても、子供たちは小さい声で反応するのがやっと。だがシモネさんが次々とブラジル・トリビアを繰り出すと、子供たちの表情がみるみると変わっていった。

挨拶を勉強中
ブラジル編の講師は、タレントのシモネさん。まずはブラジルの挨拶から。

「ブラジルの面積は、日本の22~23倍。サンパウロの街がちょうど日本と同じくらいなんだよ」
「学校は午前と午後のどっちに行ってもいいの。宿題もないんだよ」
「ブラジルの子供は朝起きて一番最初に何をすると思う? 家族とのハグ&チュー」
 日本とは明らかに異なる国土の壮大さと、自由な空気漂う風習に、子供たちから「えぇー!」「いいなぁ」という感嘆の声が次々と上がる。

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 毎回、この子供たちの “興味あります”スイッチがオン!になった瞬間を見るのが楽しい。2016年7月に行われたイギリス編は、映画『ピーターラビットとなかまたち ザ・バレエ』(1971)の上映と絵本作家大江パトリシアさんのお話。パトリシアさんがポンド紙幣を取り出すと、前のめりで興味津々。

『魔女の宅急便』に色めきだつ母&子

親子で共同作業
ブラジル編のお絵描きワークショップ。娘さんは手に絵の具を塗ってペタペタとスタンプを押すように色を塗り、親子でカラフルな蝶々を完成

 同年12月24日のクリスマスイブは、スウェーデン編。同国が誇る児童文学作家アストリッド・リンドグレーン原作『いたずら天使ミッシェル』(1971)と、早稲田大学大学院国際コミュニケーション研究科に留学中のヨハンナ・オーマンさんのお話だ。オーマンさんが「スウェーデンが舞台になった映画を知っている人」と質問を出し、その答えが宮崎駿監督『魔女の宅急便』(1989)だと知ると、子供たちのみならず同席していたお母さんたちもが色めきだった。そうして新たに覚えた事を、オリジナル・パスポートに書き込んでいく子供たち。「学校の勉強もこれくらい熱心に取り組んでくれたら……」というお母さんたちのぼやきも聞こえてきそうだ。

自由な発想でワークショップ!

入国スタンプ
「映画で世界一周! 知る・観る・楽しむ」はオリジナル・パスポートに入国スタンプを押してもらうところから旅が始まる

 さて、ブラジル編はいよいよメーン・イベント「お絵描きワークショップ」の始まり。『父を探して』を見て触発されたであろう絵心を、会場いっぱいに敷き詰めた白紙に思う存分放出してもらおうという試みだ。とはいえ、「自由に描いていいんだよ」と言われても、逆に子供たちは戸惑ってしまう。そこでスタッフが白紙の上に寝転び、別のスタッフが黒のマジックで型を取り「自分の分身も描くことができるんだよ」と見本を提示した。するとあちこちで、親子や友達で協力しあって分身描きが始まった。あとは皆、心に火が着いたようにノリノリ。次第に筆やペンでは飽き足らず、手や足に絵の具を塗ってもらい豪快に色を染めていく子供たちも現れた。気分はすっかり画伯だ。家族揃って参加していたお母さんが言う。「今日は汚れても良い服を用意してきました。こんな体験、家では絶対出来ませんものね」。

チェコ
チェコ編の入国スタンプは、上映作品『クーキー』に合わせて主人公のテディベア・クーキーの絵

 このワークショップも上映作品に合わせて毎回、趣向を凝らした内容が用意される。前述したスウェーデン編ではクリスマスカード作りが。また図書館を会場に使用する際は、学芸員が上映作品の原作絵本を朗読し、映画と原作を比較してみよう! という企画が行われる時もある。映画を通して知り得たことを、より深く、さらに興味の幅を広げてもらうという “仕掛け”が至る所に散りばめられている。

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面白さにハマる子供たち!リピーター多し

豪州
オーストラリア編の入国スタンプは、上映作品『ベーブ』のキャラクター

 その面白さにハマって、オリジナル・パスポートを片手にリピーターとして参加している子供たちも多い。上映会は2017年も継続して行われる予定だ。岡崎氏は「まだまだ訪問できていない国が多いので、初めての国や映画にも挑戦したいです。 “世界一周”に焦点を絞ると日本の作品を上映する機会や、もっと思い切ったヘンテコな企画を入れていくのが難しいのですが、(これまでの活動で開催した) “キョンシー”映画を観るあとにメークを施してキョンシーになりきってみるとか、段ボールで映画館を作ろう! のような、変わったワークショップも続けていきたいと思います」と力強く語る。

エジプト
エジプト編のスタンプは、わかりやすくスフィンクスとピラミッド。映画『プリンス・オブ・エジプト』を上映した

 ちなみに「映画で世界一周!知る・観る・楽しむ」は平成25年度(2013)から独立行政法人国立青少年教育振興機構の「子どもゆめ基金」の助成を得ている。あの2009年に行われた平成22年度予算編成に係る事業仕分けで、槍玉に上がった事業だ。廃止反対の声も後押しし継続して行われている今、本上映会のように熱意ある人たちの手によって、子供たちの視野を広げる活動に生かされていることを記しておきたい。

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中国
中国編のスタンプはカンフー。映画『ベスト・キッド』の上映とカンフー・ワークショップを開催。

●ちいさなひとのえいががっこうHP
http://yaplog.jp/eigagakkou/

●子ども夢基金HP
http://yumekikin.niye.go.jp

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