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第8回-表現の自由の場を守るために激闘中!釜山国際映画祭が果たしてきたもの

映画で何ができるのか

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オープニングセレモニーで司会を務めた渡辺謙とムン・ソリ
オープニングセレモニーで司会を務めた渡辺謙とムン・ソリ - (c)釜山国際映画祭

 韓国映画界が揺れている。

 昨年10月に開催された第19回釜山国際映画祭で、セウォル号沈没事故の問題点に迫ったドキュメンタリー映画『ダイビング・ベル(原題)』(イ・サンホン&アン・へリョン監督)の上映を巡り、同映画祭組織委員長のソ・ビョンス釜山市長と映画祭側が対立。市長は「政治色がある」と問題視して上映中止要請をしたが、映画祭側は上映決行。これが尾を引き、釜山市は監査結果に問題があったとして今年1月、イ・ヨングァン釜山国際映画祭執行委員長の辞任を要求する事態へと発展した。映画祭の独立性と表現の自由の侵害だと訴える韓国映画界は、釜山市に猛反発。ロッテルダムやベルリンなど他の国際映画祭も、非難の声を上げ始めている。(文・中山治美)

キム・ジソク氏
釜山国際映画祭エグゼクティブ・プログラマーのキム・ジソク氏。温和な顔からは想像出来ない気骨がある。(c)釜山国際映画祭

 本連載では、ちょうど釜山市の監査が入っていた頃の昨年11月、第15回東京フィルメックス参加に為に来日していた、釜山国際映画祭エグゼクティブ・プログラマーのキム・ジソク氏にインタビューした。キム氏の発言から改めて、同映画祭が果たしてきた役割や存在意義について考えたい。

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アジア交流の場としての役割

--第19回のオープニングセレモニーで司会を務めたのは韓国女優ムン・ソリと俳優渡辺謙でした。日韓関係が悪化していた最中の、あえての起用に驚くと同時に、映画祭からの強い日韓友好のメッセージを受け取りました。

キム「私たちにとっては、何も特別な事ではありません。12年は中国人女優タン・ウェイ、13年は香港俳優アーロン・クォックを起用し、常に私達は広くアジアを視野に人選しています。とはいえ、約6,000人の観客の前に立って司会を務めるのは、俳優にとっては大きな挑戦です。韓国女優に依頼すると、皆、まず怯みますから(苦笑)。また、語学が堪能でアジアでの認知度も高いという条件もあります。その中で私たちは3年ぐらい前から第19回の人選を考えていました。ハリウッドでも活躍している渡辺さんは、まさに適任だったのです」

『ダイビング・ベル(原題)』
政府にとって不都合な真実が描かれていたのか? 問題となっているセウォル号沈没事故のドキュメンタリー『ダイニング・ベル』のワンシーン。(c)釜山国際映画祭

--さらにセレモニーでは、歌手夏川りみが「さとうきび畑」を熱唱しました。韓国では長らく日本大衆文化の統制があり、地上波テレビで日本語の歌が解禁されたのは2004年のことです。映画祭が始まった1996年当初の頃を思うと、感慨深いものがあります。

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キム「夏川さんの歌を初めて聞いたのは、2009年の第1回沖縄国際映画祭でした(※沖縄国際映画祭は創設にあたり、釜山国際映画祭からノウハウを学んだことから、両映画祭の交流が生まれた)。日本語の歌詞は分からずとも彼女の歌声は琴線に触れました。今回は『さとうきび畑』を歌って頂いたのですが、第2次大戦で犠牲になった方達への鎮魂歌だと伺いました。私たちにも同様に戦争への思いがあるワケですが、特に14年はセウォル号沈没事故という悲劇を体験したばかりです。この曲は犠牲者はもちろん、遺族への癒しとなるのではないかと思いました。映画祭執行委員長のイさんをはじめ、セレモニーでは皆、涙ながらに夏川さんの歌に聞き惚れてたんですよ」

夏川りみ
オープニングセレモニーで「さとうきび畑」を歌った夏川りみ(c)釜山国際映画祭

--反日感情を抱いている韓国人もいると思います。そうした世論を懸念し、日本人の起用に反対する声はなかったのでしょうか?

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キム「政治家の中には異論を言う人もいましたが、私たちは気にしませんでしたし、スタッフから反対意見は一つも出ませんでした。実際、夏川さんがセレモニーで歌声を披露してからは、批判の声がピタリと止んだのですよ(笑)」

--しかし、芸術と政治は別とはいえ、国際映画祭はしばし、政治情勢に影響される運命にあります。その時、映画祭はどのように対応すべきか。お手本を見たような気がします。

キム「映画祭というのは、あくまで文化イベントであると私達は考えています。今回の場合は日韓問題よりむしろ、

パーティー
映画祭期間中は、国際交流基金と釜山国際映画祭の共催で日韓映画人の昼食会も開催された

セウォル号のドキュメンタリー映画上映問題が今も続いてまして……。詳細は言えませんが、政府から圧力をかけられた釜山市長が、私達に上映を中止するように通達してきたのですが、私達は断固拒否しました。その結果、政府と釜山市の両方から監査が入り、上映問題とは関係のない、助成金の使途を巡って私達を攻めるようです。でも、我々映画祭スタッフは一致団結してますし、ポン・ジュノ監督ら多くの映画監督が支援の声をあげてくれています」

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人材育成に尽力

--今や釜山国際映画祭はアジア最大規模の映画祭と称されるようになりました。映画祭の今後について、どのようなビジョンをお持ちですか?
キム「この10年間、私達の映画祭は年々拡大を続け、14年は312作品を上映しました。この規模を保ちつつ、マーケットや企画コンペ、人材育成ワークショップ『アジアン・フィルム・アカデミー』などのサイドプログラムのさらなる充実を目指してます。そして今年、フィルム・スクールを新設する予定です」

--映画学校ですか!?

キム・ギドク
キム・ギドク監督『メビウス』への出演がきっかけで、廣木隆一監督『さよなら歌舞伎町』に出演した韓国女優イ・ウンヌ(写真中央)。貴重なスリーショットが実現するのも、国際映画祭の魅力。

キム「ええ。アジアン・フィルム・アカデミーは昨年でちょうど10周年を迎え、こうした教育期間がいかに重要かを学びました。アジアン・フィルム・アカデミーは7日間のワークショップですが、フィルム・スクールは6か月の長期プログラムを考えています。新たな人材の発掘はもちろん、合作映画も増えたことからアジアのネットワーク作りの拠点にもなるでしょう。何より私達の映画祭は、カンヌ国際映画祭や東京国際映画祭のようにメーンコンペティション部門がありません。映画祭として、どのようなアイデンティティを持つか?を考えました」

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塚本晋也監督
映画『野火』が招待上映された塚本晋也監督は、釜山の観客と記念写真に収まった。

--ちなみに、映画祭の予算はいくらですか?

キム「14年は12億円です(※14年の東京国際映画祭は11億円)。ただ、政府との関係が悪化している今、15年はどうなりますか…(苦笑)」

イ・ヨングァン
退任をつきつけられたイ・ヨングァン釜山国際映画祭執行委員長(c)釜山国際映画祭

 第20回釜山国際映画祭は、10月1日~10日に開催されることが決定している。この20年間で民間レベルの日韓交流の場を築きあげ、かつ同映画祭の企画マーケット「アジアン・プロジェクト・マーケット」などの参加をきっかけに製作実現に漕ぎ着けた作品も多い。行定勲監督の日中合作映画『真夜中の五分前』(2014)もその1本だ。それだけに今回の騒動は私たち日本人にとっても、決して対岸の火事ではないのである。

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