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ポスト911、その後の映画から考えること~アメリカ同時多発テロ事件~

ゼロ・ダーク・サーティ
『ゼロ・ダーク・サーティ』より - (c)Columbia Pictures / Photofest / ゲッティ イメージズ

 あの悲劇から、17年。911(アメリカ同時多発テロ事件)が起こった時、よちよち歩きをしていた子どもたちは、もう大学生である。ニューヨークのワールド・トレード・センターとワシントンDC郊外のペンタゴン(アメリカ国防総省)が立て続けに攻撃され、大勢の被害者を出したあの1日は、アメリカを永遠に変えた。だが、若い人たちにとっては、「ポスト911」(アメリカ同時多発テロ事件以降の状況)が、彼らの知る唯一のアメリカだ。そして彼らが映画で観るあの日のことも、次第により奥深く多面的になっていっている。(Yuki Saruwatari / 猿渡由紀)

 「まだ早すぎる」「悲劇の搾取をすることになるのでは」といわれつつ、911を直接扱うメジャースタジオの映画2本が初めて公開されたのは、2006年のこと。最初はポール・グリーングラス監督作『ユナイテッド93』、次はオリヴァー・ストーンが監督を務めた『ワールド・トレード・センター』だ。よりリアルな描写をした『ユナイテッド93』は、オスカー(監督、編集部門)をはじめ、さまざまな賞にノミネートされ、それまでの懸念は払拭されることになる。

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ユナイテッド93
『ユナイテッド93』より - Universal Pictures WRITER_EDITOR: DD / Photofest / ゲッティ イメージズ

 だが、あのテロからこれらの映画が公開されるまでの5年の間に、ジョージ・W・ブッシュ米大統領(当時)は、イラクが大量破壊武器を所有していると非難し、戦争を開始。これを受けて、その後は、政治的メッセージを含む、ポスト911映画がいくつか生まれた。2008年の『ハート・ロッカー』や、2010年『グリーン・ゾーン』が良い例だ。いずれも興行成績はあまり振るわなかったようだが(とくに『グリーン・ゾーン』は赤字となった)、『ハート・ロッカー』は作品部門を含む6部門でオスカーを受賞。キャスリン・ビグローは、監督賞を受賞する史上初の女性となり、その意味でも歴史に名を刻むことになった。

ハート・ロッカー
『ハート・ロッカー』より - Summit Entertainment / Photofest / ゲッティ イメージズ

 ビグロー監督は、その次の『ゼロ・ダーク・サーティ』(2012)でも911に関連するテーマを追求。こちらは、ビンラディンを捕らえようとするCIAの奮闘を語るものだ。興行的には『ハート・ロッカー』よりかなり好成績で、またもやオスカーかともいわれたのだが、事実と異なる部分があるというネガティブな指摘が出たことから、賞レースで勢いを失ってしまった。しかし、ジェシカ・チャステイン演じるCIA分析官が、自分のことをすべて犠牲にしてまで、この巨大で危険なミッションに取り組む姿が描かれたのは、新しかったといって間違いない。

 その翌年には、ピーター・バーグ監督がメガホンを取った『ローン・サバイバー』(2013)が公開された。実話に基づくアクションスリラーを得意とする彼の情熱のプロジェクトで、原作は、アメリカ海軍特殊部隊に所属したマーカス・ラトレルが書いたメモワール。タリバンのリーダーを捕獲するミッションを与えられ、アフガニスタンに赴いた彼と仲間たちが直面した最大の悲劇についての、これまた映画では語られてこなかった側面を見せるものだ。今作は、北米で1億ドル(約110億円)を超えるヒットとなったが、もっと成功したのは、2014年のクリント・イーストウッド監督作『アメリカン・スナイパー』である。こちらは6部門でオスカー候補入りし、興収面でも北米だけで3億5,000万ドル(約385億円)、全世界で5億4,700万ドル(約601億7,000万円)を達成した。戦争を扱うシリアスなドラマでも大衆受けすることは可能なのだと示してみせた今作はまた、PTSD(心的外傷後ストレス障害)の深刻さについて論議をうながすことにもなっている。

アメリカン・スナイパー
『アメリカン・スナイパー』より - Warner Bros. / Photofest / ゲッティ イメージズ

 一方で、アン・リー監督が手がけた『ビリー・リンの永遠の一日』(2016)では、イラクを戦った若い兵士がプロパガンダのために利用されるという状況が展開された。さらに、どんな若者が現地に出向くことになっているのかという事情についても語られる。オスカー狙いといわれながら結果は芳しくなく、日本では劇場未公開になってしまった今作は、リー監督の映画としては確かにいまひとつだが、ここで触れられることは、非常に興味深い。

 そして今年は、一周回って、また911に戻ってきた。5月に日本公開された『ホース・ソルジャー』(ニコライ・フルシー監督)は、あのテロ事件の直後、最初にアフガニスタンに送り込まれた12人の軍人たちの実話だ。原作のノンフィクション本の映画化権をジェリー・ブラッカイマーが買ったのは2009年。実現に長い時間がかかり、その間、一般観客は、この驚くべき話を知らなかったわけだ。

ホース・ソルジャー
『ホース・ソルジャー』より - (C) 2018 BY HS FILM, LLC. ALL RIGHTS RESERVED.

 こんなふうに、あの一連の出来事の中で、埋もれている話や、わたしたちが考えるべき事柄はまだまだたくさんあるはずで、これからもさまざまな映画が作られていくことだろう。近年、テロは、ますます日常化していく一方。あの出来事から、目をそらすことはできない。世界を揺るがす事件があったこの911の日を、あらためてこれら過去の映画を見直すことで、わたしたちが置かれた世の中について、考えをめぐらせてみたい。(数字は Box Office Mojo 調べ、1ドル110円計算)

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