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「Glee」人気俳優がシリアルキラーを熱演!「アメリカン・クライム・ストーリー/ヴェルサーチ暗殺」評

厳選!ハマる海外ドラマ

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「アメリカン・クライム・ストーリー/ヴェルサーチ暗殺」イメージビジュアル

 ライアン・マーフィーは、アメリカのドラマ業界に君臨するヒットメイカーであり、当代随一の才能だ。「Glee/グリー」や「アメリカン・ホラー・ストーリー」などヒット作を挙げればキリがない。ケーブル局FXで「NIP/TUCK マイアミ整形外科医」のグロテスクでアクの強い作風で世に出て以来、痛烈な社会風刺やメッセージ性を持ちながら、圧倒的に娯楽として面白い作風に「これぞ連続ドラマの鏡!」と何度膝を打ったことか。そんなマーフィーの最高傑作であるアンソロジーシリーズ「アメリカン・クライム・ストーリー/O・J・シンプソン事件」(エミー賞9冠)のシーズン2は、1997年に起きた世界的ファッション・デザイナー、ジャンニ・ヴェルサーチが殺害されたショッキングな事件を描くもの。今年のエミー賞では18のノミネーションを獲得している。

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ジャンニ・ヴェルサーチ(エドガー・ラミレス)

 テーマに沿って1シーズンごとに題材を変えるアンソロジースタイルを復活させ、進化させて定着させたのもマーフィーの功績の一つ。シーズン1では、玉虫色の決着を見たセレブ、O・J・シンプソン(元アメフトのスターで俳優だった)が容疑者となった、1994年の元妻殺害事件の顛末を描いて、エミー賞を筆頭に主要なアワードを総なめにした。ありえないほど世間を騒がせ、マスコミも国民も狂乱し、注目を集めた世紀の茶番劇とも言われる裁判の舞台裏を派手に描きながら、背景にある人種差別問題を浮き彫りにする手腕はほれぼれするほど。シンプソンの逃亡劇から始まる冒頭のつかみはオッケー。豪華キャストとともにバーンと花火を打ち上げて、周知の結末へと向かう物語は俗っぽい興味で視聴者を引きつけ、次の回を観ずにはいられない中毒性を持つ。そして、現代に放つ強烈な社会派のメッセージ。こうした優れた点の多くは本作にも共通している。

 「ヴェルサーチ暗殺」は、仰々しくもドラマティックに「アルビノーニのアダージョ」(『マンチェスター・バイ・ザ・シー』でも効果的に使われていた)が鳴り響き、悲劇の予感満載で幕を開ける。贅を尽くしたマイアミ・ビーチ沿いの邸宅で優雅な1日が始まった途端、ジャンニの人生は赤いキャップをかぶったアンドリュー・クナナンによって、突如終わりを迎える。太陽が輝く美しい景色と、陰惨な殺人事件のコントラスト。これほど完璧に視聴者の心をとらえる導入もないだろう。

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妹ドナテラ・ヴェルサーチ役にペネロペ・クルス

 犯人のクナナンはフィリピン系の父親とイタリア系の母親を持つ28歳の若者だった。ゲイで語学に堪能、IQは147、反社会性パーソナリティ障害だったと言われている。その彼とヴェルサーチの間に、一体何があったのか? 事件から20年以上もの経つ現在もジャンニの死には諸説あり、クナナンは自殺したため動機も不明のままだ。本作は、驚くことに少なくとも4人を殺害していたシリアルキラー、クナナンが、最後の犠牲者となるジャンニ殺害に至るまでの過程とともに、事件の背景にある社会問題を突きつける。それは1990年代に蔓延するホモフォビア(同性愛嫌悪)であり、現代でも根強く残る性的マイノリティへの偏見だ。クナナンはアジア系なので、そこにアジア系への偏見も加わるのだが、それらの要素が事件の捜査を遅らせ、防げたはずの犯行をみすみす見逃した可能性。また、差別や偏見がゲイであるクナナンとジャンニ、そして彼らと関わる恋人や友人たちの人生に、どのような影を落としたのかを掘り下げていく。これはO・J・シンプソンがアフリカ系アメリカ人であることで、事件が異様な様相を呈していくシーズン1に通じる。

 まず何よりも素晴らしいのは、クナナンにふんするダレン・クリスだ。クリスは「Glee/グリー」の優等生ブレイン役でもおなじみで、ミュージシャンでありミュージカル俳優としてブロードウェイの舞台にも立つ実力の持ち主。第2話で、浜辺でひっかけた高齢の金持ちのゲイとホテルの部屋で、「すごい世界を見せてあげるよ」と言って相手の顔にテープをぐるぐる巻きにして、「EASY LOVER」(フィル・コリンズフィリップ・ベイリー)をBGMにパンイチで踊りまくるシーンの狂気と言ったら! ゾッとするなんてもんじゃない。こんなヤバいやつは見たことないというぐらいに壊れた人間を、クリスは見事に体現している。クナナンと同じくアジア系である点など共通点もあるが、容姿が似てる似てないは、もはや問題ではないだろう。クリスを筆頭に、シーズン1と同じく他の共演者も等しく好演しているし、美術や衣装、実際のマイアミの元ヴェルサーチ邸で撮影をしていることなど、単純に見ていて楽しい要素は多い。

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アンドリュー・クナナンは、『Glee/グリー』の同性愛者の好青年ブレイン・アンダーソン役で人気を博したダレン・クリス。別人です……

 1990年代の性的マイノリティに対する偏見や差別がいかほどのものであったか。リッキー・マーティンふんするジャンニの長年の恋人アントニオ・ダミコが、劇中でジャンニの死後、どのような扱いを受けたかを含めて、その苦しみや憤り、悲しみは計り知れない。これまでのマーフィーの作品群と同じく、本作もまたマイノリティの側に立って強烈なメッセージを放っている。同時に、個人的にはクナナンという人物像に見る「大勘違い」ぶりが、今の時代にこそ際立つ説得力を持って、リアルかつ恐ろしく感じられた。

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ジャンニの恋人アントニオ・ダミコ役に、歌手で俳優のリッキー・マーティン

 虚言癖があり、常に自分を実際以上の素晴らしい人物として語り、自らを特別な人間であると信じて疑わず、人生の目標は「特別になること」。クナナンが最も気にすることは、他人からの評価だ。家庭環境に大いに問題があったことは事実だとして、自らの力で何者かになるのではなく、男娼として高齢の富裕層のゲイを狙って金を巻き上げて一流のフリをする、偽りのキラキラ人生を選択する。可哀想なのは、常に自分だけ。成功できないのも、愛を得られないのも、みんなが憧れるセレブになれないのも、全ては“社会のせい”であり“不運”だから。あまりの身勝手さにうんざりするが、この手の発想って、割とSNS上で見かけるような気がする。

 ドラマは、ジャンニをはじめ、クナナンの友人だったジェフリー・トレイル、恋人だったデイヴィッド・マドソン、3人目の犠牲者である、著名な不動産開発業者で72歳のクローゼットゲイであったリー・ミグリンらの人生と対比することで、いかにクナナンが間違った道を選択し、破滅への道をたどったのかを示唆している。彼らにはあって、クナナンにはないものとは何か。それこそが人生で最も大切なものであり、クナナンが一連の犯行に及んだ理由として本作では位置付けられている。

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壁に血しぶき……!一体、何が!?

 強いて言えば、過去に遡る形で犯行の詳細を明かしていきながら、さらには犯行前のクナナン、ジャンニ、その他の関係者の物語を交互に描き出すスタイルは、若干のスムーズさに欠けるかもしれない。第8話からの最終話で、物語は1997年のジャンニ殺害時点へと、ぐるっと円を描くように戻って来る仕掛けも凝っている。だが、やや消化不良気味に感じられるのは、ジャンニのパートの描写が思ったより少ないことも一因だろうか。あくまでも完璧すぎるシーズン1と比べると、といった意味での贅沢なダメ出しではあるのだが。マーフィーが監督した第1話は、さすがの貫禄。第8話の演出を手がけて監督デビューを果たした俳優のマット・ボマーほか、ベテラン勢による演出はいずれも見応えがあるものだ。

 ちなみに、本作は数ある事件の関連本の中から、1999年に出版されたモーリーン・オースの原作をもとに、秀作ドラマ「ロンドン・スパイ」(Netflixで配信中、こちらも必見)のトム・ロブ・スミスがテレビドラマとして発展させた。こちらも実話に基づく「フュード/確執 ベティvsジョーン」と同様に、ジャンニの親族や関係者からは「事実と全く異なる」との批判が出ているが、マーフィーは本作を「ドキュメンタリーではなくドキュドラマ」だと反論している。

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成功できないのはすべて社会のせい……

 そもそも論として実話の映像化といっても、正確に会話まで再現することは不可能だし、事実からエッセンスを抽出し、クリエイターとしてのマーフィーが、どの視点に立っているのかが明確に反映された解釈こそが、ドラマの醍醐味でもある。「フュード/確執」でも事実と異なる描写はあるが、故意に事実や故人を歪めたり貶めている印象はない。むしろ、「フュード/確執」ではジョーン・クロフォード、本作ではジャンニ・ヴェルサーチへのマーフィーのシンパシー、尊敬の念が勝った描写になっていて、その思いの強さが愛おしくもある。本作でも事実とは異なる部分がある旨は毎回注意書きが表示されるが、作り手が何を伝えたかったのかを読み取ることが重要である。

(C) 2018 Fox and its related entities. All rights reserved.

「アメリカン・クライム・ストーリー/ヴェルサーチ暗殺」(原題:American Crime Story: The Assassination of Gianni Versace)全9話
85点
ミステリー ★★★★☆
社会派 ★★★★☆
恋愛 ★★★☆☆

視聴方法:
BS10 スターチャンネルにて独占放送中(字幕版:毎週月曜よる11:00ほか、二か国語版:毎週木曜よる10:00ほか)

今祥枝(いま・さちえ)映画・海外ドラマライター。4月号から「小説すばる」で「ピークTV最前線」を連載中です。作品のセレクトは5点満点で3点以上が目安にしています。Twitter @SachieIma

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