女性の時代だからこそ輝く、巨匠ベルイマンが生んだ女性映画の傑作

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夏の夜は三たび微笑む
『夏の夜は三たび微笑む』- (C) 1955 AB Svensk Filmindustri

 今年、生誕100年を迎えた巨匠イングマール・ベルイマンスタンリー・キューブリックウディ・アレンスティーヴン・スピルバーグなど後世に大きな影響を及ぼしたといわれるベルイマン監督は、神の不在や愛と憎悪、生と死など難解なテーマで知られているが、実は女性を描く名手としての一面もある。映画界でも女性の活躍が著しい現在、ベルイマン監督の“女性の映画”の魅力を紹介する。(編集部・大内啓輔)

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北欧の夏を美しく描く青春映画!

『夏の遊び』(1951)

夏の遊び
『夏の遊び』- (C) 1951 AB Svensk Filmindustri

 1944年に脚本家デビューを果たし、戦後まもなくの1946年に『危機』を手掛けて映画監督としてキャリアをスタートさせたベルイマン監督。10本目の監督作となる本作は、個性的な女性が主人公にすえられている。また、のちの名作『野いちご』(1957)にも印象的に登場するフラッシュバックによる回想や、そのきっかけとなる小道具としての日記など、ベルイマン監督作品の特徴といえる要素がたくさん登場する。

夏の遊び
『夏の遊び』- (C) 1951 AB Svensk Filmindustri

 そんなベルイマンの“女性の映画”の出発点といえる本作は、彼が16歳の夏に家族と過ごした島で体験した淡い恋を描いた短い小説を基にしたラブストーリー。新聞記者の恋人と結婚するか、仕事を続けるかの選択に悩むプリマ・バレリーナのもとに古い日記が届き、それを読んだ彼女は少女時代を過ごした思い出の地を訪れ、バレエ教室の生徒だった頃のひと夏の恋を回想する。物語自体はよくある男女の恋愛を描いたものだが、女性の内面を映像やモノローグによって表現するというベルイマン監督の本領が存分に発揮されている。

夏の遊び
『夏の遊び』- (C) 1951 AB Svensk Filmindustri

 そして、タイトルにもあるように、夏という季節が青春映画にみずみずしい雰囲気を与えている。厳しい冬が待っているスウェーデンをはじめとする北欧では、短い夏はつかの間の幸福の時間。そんな明るい雰囲気に満たされた10代の頃の恋愛の思い出が、満たされない思いを抱えた主人公の現在と対比されている。そして、ベルイマン監督が手掛けた、その後の2作品にも北欧の夏が印象的に登場する。『シークレット・オブ・ウーマン』(1952)は、夏の別荘を舞台に夫の帰りを待っている義理の姉妹たちが、それぞれの結婚や情事を語り合うというオムニバス形式の映画だ。

夏の遊び
『夏の遊び』- (C) 1951 AB Svensk Filmindustri

 その翌年の『不良少女モニカ』(1953)は、自由奔放な少女モニカと真面目で臆病な青年の刹那的な恋が描かれる美しい青春映画に仕上がっている。低予算で撮影されたため、野外撮影での即興的な映像が随所に見られるものの、それがフランスなどのヌーヴェル・ヴァーグの先駆けとして見なされることとなった。フランソワ・トリュフォーは、『大人は判ってくれない』(1959)で主人公が『不良少女モニカ』のスチール写真を盗む場面を登場させ、ベルイマン監督への敬意を表している。

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3人の女性たちが魅力的!お洒落なロマンチック・コメディー

夏の夜は三たび微笑む』(1955)

夏の夜は三たび微笑む
『夏の夜は三たび微笑む』- (C) 1955 AB Svensk Filmindustri

 第9回カンヌ国際映画祭のコンペティション部門にノミネートされ、最終的には特設された「詩的ユーモア賞」を受賞したロマンチック・コメディー。19世紀の終わりから20世紀の初頭を舞台に、当時の衣装に身を包んだコスチューム・プレイで、ある夏の夜に郊外の別荘に集まった男女数組の心の機微が描かれる。シュイクスピアの「真夏の夜の夢」を彷彿させる本作は、ベルイマン映画に付きまとう難解なイメージとはかけ離れた幸せな気分になる作品で、ベルイマン監督にとっての初めての国際的なヒット作となった。

夏の夜は三たび微笑む
『夏の夜は三たび微笑む』- (C) 1955 AB Svensk Filmindustri
サマー・ナイト
『サマー・ナイト』- Orion/Getty Images

 物語は、それぞれに愛に関する問題を抱えた3組の不釣り合いな恋人たちが、よりふさわしい相手とのカップルを作り直す様子がコメディータッチで展開していく。そんな恋の行き詰まりを解消するのが、それぞれに個性の異なる魅力的な3人の女性たちだ。駆け引きを楽しんでいるように恋愛のたわむれにいそしむ彼女たちは、男性たちを翻弄していくが、そんな自由奔放な姿には、男性の小さな自意識など意に介さないような力強さが感じられる。本作でも季節は夏に設定されていて、刹那的な恋愛の喜びを享受する女性たちが主役の映画となっている。

 また、ベルイマン監督に大きな影響を受けているウディ・アレン監督は、本作を意識したであろう『サマー・ナイト』(1982)を手掛けている。舞台をニューヨーク郊外に移して、相手役をミア・ファローに自身が主演を務めた。

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後世に多大な影響を与えた前衛的な問題作

『仮面/ペルソナ』(1966)

仮面/ペルソナ
『仮面/ペルソナ』- (C) 1966 AB Svensk Filmindustri

 デヴィッド・フィンチャー監督の『ファイト・クラブ』(1999)やデヴィッド・リンチ監督の『マルホランド・ドライブ』(2001)など、後年の作品にも影響を及ぼしたといわれる前衛的な作品。古いアメリカのコミックやベトナム戦争時に焼身自殺をした僧侶のイメージなど、多様な映像が怒涛のようにモンタージュされるオープニング映像や、途中でフィルムが切れてしまったように映像が途切れる演出でも知られる。精神分析的な解釈の余地を与えるようなメタファーも多く、そうした作品の持つ多様性が後々の影響へと繋がっているのだといえる。

仮面/ペルソナ
『仮面/ペルソナ』- (C) 1966 AB Svensk Filmindustri

 物語は、分身=ドッペルゲンガーをテーマに、舞台上で言語障害を起こした女優と彼女を看護する女性の関係が、療養期間中に異常なものへと変わって、やがて意識を共有するようになっていくというもの。性格の異なる2人の女性が内的な会話を経て、愛し合い、そして争う。劇中では実際に顔の似た2人の女優(ビビ・アンデショーンリヴ・ウルマン)の顔が重なって、それぞれのアイデンティティーが同化していく。ベルイマン監督は、主人公の女性の内面に迫ろうとする作品を手掛けてきたが、本作はその極致といえる作品だ。

仮面/ペルソナ
『仮面/ペルソナ』- (C) 1966 AB Svensk Filmindustri

 ベルイマン監督は本作で、リヴ・ウルマンを初めて主役として起用しているが、この作品をきっかけに2人の関係は恋愛へと発展。その後の5年間、共に暮らした後、破局するもののおよそ40年の間、協力関係にあった。その恋模様はドキュメンタリー映画『リヴ&イングマール ある愛の風景』(2011)に描き出された。ちなみにベルイマン監督は華麗なる恋愛遍歴を辿った人だったが、生涯で5度の結婚を経験している。

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ヴィヴィッドな色彩の室内で語られる女性たちの苦悩

『叫びとささやき』(1972)

叫びとささやき
『叫びとささやき』- (C) 1973 AB SVENSK FILMINDUSTRI

 『仮面/ペルソナ』と同様に、この作品でも男性の影はきわめて薄く、主として女性たちによって物語が進んでいく。19世紀末のスウェーデン、大邸宅に住む4人の女性たちの愛と苦悩が描かれる。ベルイマン監督作として初めて日本で上映されたカラー作品である本作は、壁や絨毯など部屋全体が赤を基調とした独創的な色彩設計が高く評価され、アカデミー賞(撮影賞)ほか各賞を受賞した。

叫びとささやき
『叫びとささやき』- (C) 1973 AB SVENSK FILMINDUSTRI

 この映画は、ベルイマン監督が本作を手掛ける数年前に見た夢が基になっている。それは赤い部屋の中で白い衣服を身につけた3人の女性が、何かをささやきあっているという内容のものだったという。そんな夢の風景が発端にあるためか、現実と夢、幻想と記憶の場面との境界線があいまいになっており、時間が存在しないかのような独自な世界がかたち作られている。物語は、邸宅のみで展開する室内劇だが、この邸宅を女性の子宮のメタファーとして解釈することも可能だという指摘もある。

叫びとささやき
『叫びとささやき』- (C) 1973 AB SVENSK FILMINDUSTRI

 映画賞を複数受賞するなど、高い評価を受けた本作だが、これがスウェーデンで劇場公開を目的として制作された最後の作品となった。当時のベルイマン映画がスウェーデンの観客に求められなくなったことも意味するが、そのことが新たな試みへと導くこととなる。それが、「ある結婚の風景」(1973)での連続テレビドラマという形式だった。結婚10年目を迎えた一組の夫婦のリアルを描き出した人間ドラマは、安定した暮らしを送っていた2人が、夫婦についての取材を受けたことを機に徐々に変化していく様子が各50分の6エピソードで描き出していく。

叫びとささやき
『叫びとささやき』- (C) 1973 AB SVENSK FILMINDUSTRI

 現在では、長いキャリアを持つ映画監督がテレビドラマを手掛けることは珍しくないが、当時のベルイマン監督としては“落ち目”であったことは事実だろう。そんななかベルイマン監督は、自身の個人的な体験を踏まえて夫婦の物語を紡ぎ出した。彼は『叫びとささやき』に出演した女性たちとも愛し合ったことがあるとされているが、5度の結婚と数多くの女性との同棲生活を経験した彼にとって、女性は映画づくりのエネルギーを与える存在であったことはまちがいなく、「ある結婚の風景」は自身の体験を基に夫婦間の問題を物語として展開させたのだといえる。

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2人の“ベルイマン”が紡ぐ母娘の葛藤の物語

秋のソナタ』(1978)

秋のソナタ
『秋のソナタ』- (C) 1978 AB Svensk Filmindustri

 還暦を迎えたベルイマン監督が、『カサブランカ』などのイングリッド・バーグマンを迎えて撮影した作品で、これが彼女の最後に出演した劇場映画となった。“バーグマン”は“ベルイマン”の英語読みであり、2人の“ベルイマン”が顔を合わせたことでも話題となった。ハリウッドでも長く活躍したバーグマンは、本作で久々にスウェーデン語の演技を披露している。

秋のソナタ
『秋のソナタ』- (C) 1978 AB Svensk Filmindustri

 物語では、バーグマンふんする国際的に著名なピアニストと娘(リヴ・ウルマン)の関係が描かれる。母に対して音楽的な才能の上でも、生き方の上でもコンプレックスを持っている娘と、奔放な恋に生き、幼い彼女をあまり顧みない過去を持つ母親。公演旅行から戻ってレッスンに専念する母親の世話を焼くうちに、娘は感情の爆発を抑えられなくなっていく。

秋のソナタ
『秋のソナタ』- (C) 1978 AB Svensk Filmindustri

 本作では、清澄な光が印象的に登場するなかで理解しあえない母娘が描かれるが、芸術家が家族を顧みることなく仕事に打ち込み、子どもへの愛情を十分に与えられなかったという設定は、ベルイマン監督自身の体験が盛り込まれていると捉えることもできる。その点では「ある結婚の風景」と共通するところだが、また室内劇で会話を主として物語が進むというところもテレビドラマ制作の経験が生きている。

ファニーとアレクサンデル
『ファニーとアレクサンデル』- (C) 1982 AB Svensk Filmindustri, Svenska Filminstitutet. All Rights Reserved.

 さらには、精神分析的な要素や生きる上での苦悩という主題など、ベルイマン監督がこれまで取り上げてきた問題が、集大成のように表れていることも興味深い。その後、映画監督としての引退を発表した撮影に臨み、自伝的な要素をふんだんに盛り込んだ『ファニーとアレクサンデル』(1982)へと結実していく。この映画でアカデミー賞外国語映画賞を受賞。翌年のベネチア国際映画祭で、全作品に対して金獅子賞を与えられた。

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まだまだある!ベルイマン生誕100年映画祭の上映作品

イングマール・ベルイマン
演技をつけるベルイマン監督 - 『ファニーとアレクサンデル』撮影時

 ベルイマン映画の中では、恋愛のような場面でも女性が男性との相対的な関係で語られることは少なく、むしろ男性は女性に置いてけぼりにされている印象を受けるほどだ。しかも彼女たちは、強い女性、自立した女性などステレオタイプな女性像とも異なる、より普遍的な人間像が作り出されている。一見、難解なイメージを与えることの多いベルイマン監督作を、女性たちの画面での活躍から注視してみると、新たな発見がきっとあるはずだ。

第七の封印
『第七の封印』- (C) 1957 AB SVENSK FILMINDUSTRI

 そんなベルイマン監督の生誕100年を記念して、「ベルイマン生誕100年映画祭」が7月21日より YEBISU GARDEN CINEMA などで開催される。アーノルド・シュワルツェネッガーの『ラスト・アクション・ヒーロー』(1993)などでパロディー化されたことでも知られる『第七の封印』(1956)など代表作がデジタル・リマスターで蘇る。代表作の『野いちご』(1957)、『魔術師』(1958)、『処女の泉』(1959)、神の沈黙3部作『鏡の中にある如く』(1961)、『冬の光』(1963)、『沈黙』(1963)など、これまで観ることも難しかった名作群をスクリーンで楽しむことができる。

参考文献
イングマール・ベルイマン「ベルイマン自伝」木原武一訳、新潮社、1989年
小松弘「ベルイマン」新装版、清水書院、2015年

「ベルイマン生誕100年映画祭」の上映作品(13作品)
『夏の遊び』『夏の夜は三たび微笑む』『第七の封印』『野いちご』『魔術師』『処女の泉』『鏡の中にある如く』『冬の光』『沈黙』『仮面/ペルソナ』『叫びとささやき』『秋のソナタ』『ファニーとアレクサンデル』

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