『女と男の観覧車』ファッションから見る、1950年代アメリカの理想と現実

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女と男の観覧車
(C) 2017 GRAVIER PRODUCTIONS, INC.

 トランプ大統領が「もう一度強いアメリカを」を叫ぶとき、皆さんが思い描くのは1950年代の“古き良きアメリカ”と呼ばれる時代ではないでしょうか? ウディ・アレン監督の最新作『女と男の観覧車』は、そんな1950年代の行楽地コニーアイランドを背景に男と女の物語が描かれています。同作に登場する2人のヒロイン、彼女たちのファッションから、1950年代の黄金期と呼ばれるアメリカの光と闇をのぞいてみましょう。(文:此花さくや)

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■働けど貧しい労働者

 主人公のジニー(ケイト・ウィンスレット)は、コニーアイランドの遊園地で働く夫ハンプティ(ジム・ベルーシ)と、前の夫との間に出来た息子リッチー(ジャック・ゴア)と3人暮らしています。遊園地内にあるレストランでウェイトレスとして働く彼女は、その日暮らしの貧しい生活に疲れ、女優だった過去の思い出に浸る毎日。ある日、結婚していたハンプティの娘・キャロライナ(ジュノー・テンプル)が出戻り、諸事情から共に暮らすことになります。

女と男の観覧車
コニーアイランドの遊園地で働く貧しい労働者階級の二人 - (C) 2017 GRAVIER PRODUCTIONS, INC.

■富裕層の女性が身にまとうペンシルスカート

 このキャロライナが登場シーンで着ている、大きく胸の開いた花柄のワンピース。タイトなペンシルスカートで歩くとヒップが揺れることから、“wiggleスカート(揺れ動く)”と当時は呼ばれました。見た目の通り、とても窮屈で、家事や仕事には向いていないこの服は、当然ながら、家事や仕事をする労働者階級の女性ではない証拠。キャロライナの元夫はギャングだけあって裕福だったのです。

女と男の観覧車
突如現れた娘・キャロライナ - (C) 2017 GRAVIER PRODUCTIONS, INC.

■ファッションの民主化

 当時のアメリカは第二次世界大戦後の好景気に沸き、中流階級の台頭や化繊生地の発達で、ファッションの民主化が始まっていました。上流階級のオートクチュール(高級仕立て服)にしか許されていなかったモードが、中流階級まで広がり、女性はファッションにお金をかけることがステータスになっていました。その上、戦争から戻ってきた男性たちが社会復帰すると、アメリカの郊外には新興住宅地が次々に建っていきました。芝生の庭とマイカーのある広い家で、毎日ヘアをセットし、フルメイクをして、着飾って夫の帰りを待つのが中流階級の女性の理想となったのです。

女と男の観覧車
ジニーの不倫相手ミッキー(ジャスティン・ティンバーレイク)と恋に落ちるキャロライナ。そのゴージャスな装いはコニーアイランドで働く女性には見えません…… - (C) 2017 GRAVIER PRODUCTIONS, INC.

 作中、生活が苦しいはずなのに、娘が美しく装うことを誇らしく思い、学費の面倒まで見るハンプティ。夫に対して、「まるで恋人気取りじゃない」とジニーがなじるシーンがありますが、それはキャロライナが夫のお金で着飾る中流階級の専業主婦のように振舞っているから。ジニーにはそれが許せなかったのです。

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■労働者階級の女性に人気のボタンフロントスカート

 ワンピース姿のキャロライナに対し、ブラウスとスカートというカジュアルな姿なのがジニー。1950年代の中流階級の女性は、外出するときには帽子や手袋もかかせず、夫が家にいるときでさえ、髪をセットしメイクをしているのが常識でした(米ドラマ『MAD MEN マッドメン』の主人公ドンの妻ベティが典型的な中流階級の女性です)。例外的に、不倫相手のミッキーとのデートでは髪をセットしてオシャレをするジニーですが、普段は化粧っけもなく、動きやすそうなブラウスとスカートを身に付けています。

女と男の観覧車
毎日髪をセットする余裕もないジニー。水玉や花柄のブラウス、ハイウエストで裾が広がるスカートは、ペンシルスカートと共に1950年代のトレンド。中でも、ボタンフロントスカートは人気だったのだそう - (C) 2017 GRAVIER PRODUCTIONS, INC.

 この簡素な姿には、古き良きアメリカの恩恵を受けていない、労働者階級の女性が見えます。事実、1950年代は、大衆文化が花開く反面、政治は保守化が進み、米ソの冷戦、朝鮮戦争、共産主義の弾圧、人種分離法や女性差別といった政治的・社会的な不安が高まり、現在言われているような完璧な黄金時代ではなかったのです。

■女性が生きづらい1950年代

 アメリカンドリームを手にいれた中流家庭とて、男性が戦争から戻るなり、戦時中に働いていた女性は家庭に閉じ込められ、窮屈なファッションを身につけることを求められた1950年代。女性の雇用率は低下し、職場に残った女性も賃金格差やセクハラに直面していました。この時期、抗うつ剤が開発され飛ぶように売れ、精神科に通うのがブームとなった事実も、1950年代の闇を物語っているのではないでしょうか。

女と男の観覧車
ストライプ柄、ピンクやレッドカラー、コスチュームジュエリーがトレンドだった1950年代。ミッキーのためだけに着飾るジニーが痛々しい…… - (C) 2017 GRAVIER PRODUCTIONS, INC.
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■アメリカ有数の行楽地コニーアイランドの衰退

 ブルックリン南端の半島にあるコニーアイランド。1830年頃から1920年代頃までは、中流階級と労働者階級が通うアメリカ有数の行楽地でした。まだまだ娯楽の少なかったその時代、人々はこの地で解放的になり、出会いの場所でもあったそうです。しかし、1930年代からギャングが横行し、1940年代には連続火災事件が続き、1950年代のコニーアイランドはずいぶんと落ちぶれていたそうです。劇中でも、ジニーの息子リッチーが放火まがいの火遊びをしていたり、ギャングが登場したりと、実際のコニーアイランドの闇と重なります。

女と男の観覧車
劇中、賑わいを見せるコニーアイランドのビーチ - (C) 2017 GRAVIER PRODUCTIONS, INC.

 コニーアイランドはその後ますます衰退し、1990年代には完全にスラム化してしまいます。ですが、2000年代にかけて、メジャーリーグ、ニューヨーク・メッツのマイナーチーム、ブルックリン・サイクロンズのスタジアムの建設、市民団体の運動やコニーアイランド区画改革が功を成し、今では様々なイベントが開催される歴史的遺物として、かろうじて生き残っています。

 結婚と裏切り、人生の虚無感をテーマにしてきたアレン監督。48作目の『女と男の観覧車』では、落ちぶれてしまったコニーアイランドを舞台に、2人の対象的なヒロインを描くことによって、古き良きアメリカと信じられているアメリカの光と闇をも描こうとしたのかもしれません。

【参考】 開分社出版 ジョン・F・キャソン著『コニーアイランド 遊園地が語るアメリカ文化』

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