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ぐるっと!世界の映画祭

苦難も乗り越え、真理子哲也、入江悠ら次世代の監督を多数輩出!ゆうばり国際ファンタスティック映画祭(日本)

ぐるっと!世界の映画祭

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メイン会場・合宿の宿ひまわりの前で行われたゲスト全員がそろっての雪上フォトセッション。夕張のゆるキャラ・メロン熊や、NEXCO東日本のマナー啓発キャラ・マナーティなども一緒に。

【第69回】

 勝新太郎デニス・ホッパークエンティン・タランティーノetc……世界中の映画人に愛されながらも夕張市の財政破綻により、一時は継続が危ぶまれたゆうばり国際ファンタスティック映画祭(以下、ゆうばり)。しかし映画ファンと市民の力強いサポートを得て北海道の冬の名物詩として、真利子哲也入江悠らを輩出した若手監督発掘・支援の場として活況を呈している。3月15日~19日に開催された第28回を、インターナショナル・ショートフィルム・コンペティション部門の審査員を務めたアニメーション作家・秦俊子監督がリポートします。(取材・文:中山治美、写真:秦俊子、ゆうばり国際ファンタスティック映画祭)

ゆうばり国際ファンタスティック映画祭

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ゆうばり苦難の歴史

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華やかに行われたオープニングセレモニー
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歓迎セレモニーではホテルマウントレースイの前にレッドカーペットが敷かれ、夕張でロケが行われた映画『幸せの黄色いハンカチ』にちなんで市民が黄色いハンカチを振ってゲストをお出迎え。
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ゆうばりホテル シューパロで行われたオープニングパーティーでは秦俊子監督も餅つきに挑戦。

 開催地の北海道夕張市はかつて炭鉱の町として有名。しかし斜陽産業となったことから、観光を目玉にしようと当時の中田鉄治市長らが中心となって1990年にゆうばり国際冒険・ファンタスティック映画祭をスタートさせた。

 映画祭の方向性は、同じく冬のスキーリゾート地で行われていたフランスのアボリアッツ・ファンタスティック映画祭(現・ジェラルメ国際ファンタスティカ映画祭)を参考にし、SF、ホラー、ファンタジー、アドベンチャー、アクション、サスペンスなどのジャンル映画に特化。そんなエンターテインメント性豊かな作品群を、デニス・ホッパーや勝新太郎、塚本晋也チャウ・シンチーといった錚々(そうそう)たる面々が審査員を務めて賞を授与するとあって、映画を愛する人たちの憧れの映画祭へと成長。2000年には名称を現在のゆうばり国際ファンタスティック映画祭へと変更した。

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映画祭を盛り上げるウェルカムサポーターのみなさま。お似合いです!

 雲行きが怪しくなったのが、実行委員長も務めるなど映画祭最大のサポーターでもあった中田鉄治市長が2003年に退任したあたりから。後藤健二氏が新市長となり実行委員長を引き継ぐも、2006年に市の財政が事実上破綻していることが発覚し、市が主体で行っていた映画祭の休止も決定。それを惜しむ有志が主体となって2007年は「ゆうばり応援映画祭」も開催された。

 2008年にNPO法人ゆうばりファンタが設立と体制を整え、民間の手によって運営が再スタート。2015年には再出発以降最多となる動員数1万4,368人を記録した。2018年はスクリーン数の減少に伴い数字は少し落ちたが、それでも1万2,522人を動員し、雪をも溶かす熱き5日間を終えた。(数字は「ゆうばり国際ファンタスティック映画祭」調べ)

 「バイオレンスやホラーといったジャンル映画をきちんと上映してくれる日本では数少ない映画祭。わたし自身、ホラー作品を制作しているので、この映画祭なら受け入れてもらえるかも? と短編『さまよう心臓』(2011)で2012年に初参加しました。以来、今回で4回目。わたしにとって一番ゆかりの深い映画祭となりました」(秦監督)。

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日本と海外の作品に歴然な差

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インターナショナル・ショートフィルム・コンペティション部門グランプリ受賞作の『ぱん。』(阪元裕吾・辻凪子監督)は、主演の辻凪子がパン屋をクビになった実話を基にしたブラックコメディー。
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ファンタスティック・オフシアター・コンペティション部門とインターナショナル・ショートフィルム・コンペティション部門の審査員が勢ぞろい(前列中央が秦俊子監督)。
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今年のゆうばりでひときわ威圧……もとい、オーラを放っていたファンタスティック・オフシアター・コンペティション部門審査委員長の瀬々敬久監督(左)とインターナショナル・ショートフィルム・コンペティション部門の審査員・大森立嗣監督。

 映画祭プログラムや賞の名称も進化を続けている。第28回の部門は、特別招待作品、オフシアター・コンペティション、インターナショナル・ショートフィルム・コンペティション、ゆうばりチョイス、企画・協賛の5つ。秦監督はインターナショナル・ショートフィルム・コンペティションの審査員を、『セトウツミ』(2016)などの大森立嗣監督、アニメーション監督のイシグロキョウヘイと共に努めた。

 「『映画の妖精 フィルとムー』(2017)の招待上映が決まり、審査員の出し受けました。わたし自身はコンペティションは好きではなく、自分の作品が審査されるのがあまり好きではないのですが、お世話になっている映画祭ですし審査員というポジションも初めての経験なので、これも良い機会と思い引き受けさせていただきました」(秦監督)。審査員によっては1プログラムを観た後にその都度、意見を述べあう方法もあるが、今回は「大森監督の提案で、”事前の話し合いはなしで、審査会で一気に決めましょう”となりました」(秦監督)。

 対象作品は4プログラム計20本。秦監督たちは観客と一緒に会場で観賞したという。「わたしが『さまよう心臓』で2012年に同部門に参加した時より、全体的に作品のレベルが上がっているという印象を受けました。日本の作品と外国作品も、中身に差はないのですが、ただカラーグレーディング(映像の色彩補正)や音響は海外の方が優れており、クオリティーの面で差がありました」(秦監督)。

 結果、グランプリは共に京都造形芸術大学出身の阪元裕吾辻凪子が共同監督を務めた『ぱん。』に贈られた。主演も務めた辻の実体験を基にした、パン屋を舞台にしたブラックコメディーだ。「低予算作品の荒さはありましたが、誰が観ても面白いと思える作品でした。この映画祭ならではの作品に賞を授与することができたと思います」(秦監督)。

 そして審査員の体験は、秦監督にとっても発見があったようだ。「実は今回のゆうばりで一番楽しかったのが審査会でした。自分が興味のある作品もそうでない作品も合わせて観る機会はそうないですし、それら作品を、他の審査員お二方の違った方向からの意見を伺いながら語り合う機会はなかなかありません。本当に面白かったです」(秦監督)。

 忌憚(きたん)のない意見が飛び交ったであろう審査会を、ぜひのぞいて見たいものだ。

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斎藤工とゆうばりから世界へ

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斎藤工が声優を務めたホラーコメディー『パカリアン』。短編自主制作版はショートショート フィルムフェスティバル & アジア 2017では話題賞を獲得。
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ゆうばりチョイス部門で『映画の妖精 フィルとムー』が上映された際には、秦監督がQ&Aに登壇した。
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インターナショナル・ショートフィルム・コンペティション部門グランプリを受賞した『ぱん。』の主演・共同監督の辻凪子(左)。副賞として次回作支援金50万円が贈られた。

 ゆうばりは受賞者への副賞として、オフシアター・コンペティション部門グランプリには今年から50万円、インターナショナル・ショートフィルム・コンペティション部門のグランプリと優秀芸術賞にもそれぞれ50万円が授与される。副賞目当てに応募している人も多く、実際に支援金を活用して、当時のファンタスティック・オフシアター・コンペティション部門で『大地を叩く女』がグランプリを受賞した井上都紀監督は『不惑のアダージョ』(2009)を、同『孤高の遠吠』(2015)の小林勇貴監督は『逆徒』(2017)を制作している。

 秦監督も支援金を得た一人で、短編『さまよう心臓』で50万円の支援金を得て、MOOSIC LABとのコラボレート作品である人形アニメ『メロディ・オブ・ファンハウス』(2013)を制作。そして同作を引っさげて2013年のゆうばりに再び参加した。

 「その2013年のゆうばりで、『メロディ・オブ・ファンハウス』に出演していただいた佐伯日菜子さんと、『ニンジャ・セオリー』(2013)飯塚貴士監督と声で出演した斎藤工さんとトークイベントを行いました。そのご縁で斎藤さんに次の人形アニメ『パカリアン』(2017)の声をお願いし、さらにそこから斎藤さんが齊藤工名義で企画・ストーリー原案・キャラクター命名・脚本・声優を手がけた『映画の妖精 フィルとムー』の監督をすることに。ゆうばりでの出会いが今に繋がっています」(秦監督)。

 さらに『パカリアン』は新たな展開を迎えている。このほど、アメリカのカートゥーンネットワークの大人向け放送時間「アダルトスイム」でショートアニメ版を制作。短編自主制作版同様、斎藤が引き続き声優を務めている。アメリカの人気アニメ「サウスパーク」が大好きで、いつかオリジナル作品でのテレビシリーズを手がけたいと思っていた秦監督にとっては何よりの朗報だ。「自分の描いていた理想に、ちょっとずつ近づいているようでうれしいです」(秦監督)。

 今後、どんな広がりを見せるのか楽しみだ。

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フィルとムーも世界に羽ばたく

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秦監督は今年1月、東京藝術大学とASEANの共同プロジェクトでミャンマーの国立芸術分科大学(NUAC)に行き、2日間に渡ってクレイアニメ・ワークショップの講師を務めた。

 秦監督は審査員の他、招待上映されたクレイアニメーション『映画の妖精 フィルとムー』の上映にも立会い、Q&Aを行った。

 「映画を知らない発展途上の子供たちに届けようと始まった作品なので、子供が対象の作品です。ですので、ゆうばりのカラーとは少し違うかなと思ったのですが、劇中に込めた名作へのオマージュシーンについて、答え合わせしているお客様もいらっしゃったり、皆さん熱心に鑑賞してくださったのだと思いました」(秦監督)。

 『映画の妖精 フィルとムー』も第30回東京国際映画祭での世界初上映を皮切りに続々と海外映画祭への参加が決まっているが、秦監督自身も今年1月、本作を教材に東京藝術大学とASEANの共同プロジェクトでミャンマーの国立文化芸術大学(NUAC)に赴き、クレイアニメ・ワークショップを行ってきたという。

 「ミャンマーでは軍事政権下時代、学生が戦時運動に参加することを恐れて長く大学が閉鎖されていたそうです。なので、実写映画は制作されているのですが、専門技術を要するアニメーションの分野はまだまだ。そこで母校である東京藝大が協力してアニメ文化を広めていこうと今回のプロジェクトが始動し、ストップモーションアニメーションなら実写に近い撮影方法で制作できるのでわたしが講師を務めることになりました。同プロジェクトは去年も別の講師で行われており、そのときに受講した生徒がその後自分たちで制作したクレイアニメを観せてくれたんです。こうして徐々にアニメ文化が広まってくれたらうれしいです」(秦監督)。

 近い将来、ミャンマー発のクレイアニメーションが誕生するかも!?

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ゆうばりに叛逆者現る

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夜の社交場・屋台村で他のゲストたちと交流。
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夕張市民が野外バーベキューでゲストや観客をもてなす映画祭名物ストーブパーティー。料金は「おこころざしで」。
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フジテレビの笠井信輔アナウンサーらと共に地元の方のお宅に招待いただき、ジンギスカンをいただきました!

 昨今、本映画祭は新たな才能の発掘に定評がある一方で、ラインナップも観客もおとなしくなったという声もちらほら。そこで特殊造型プロデューサーで、『蠱毒 ミートボールマシン』(2017)の映画としても知られる西村喜廣らが中心となって同時期に「ゆうばり叛逆映画祭2018」を開催し、ファンタスティック映画祭のあり方に一石を投じた。

 この動きについて秦監督は「確かに以前のゆうばりはもっとジャンル映画が多かったのですが、多様性のある今のセレクションもまた魅力的だと思います」(秦監督)。

 率直な意見に発し、賛否ぶつけ合うのもゆうばりが風通しいい証。互いに刺激し合って盛り上がっていくことを期待したい。

秦俊子公式サイト

ゆうばり叛逆映画祭公式サイト

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