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第90回アカデミー賞作品賞候補9作品スゴイのはココ!<前編>

第90回アカデミー賞

 現地時間1月23日、第90回アカデミー賞のノミネーションが発表されました。最多13ノミネートを果たしたギレルモ・デル・トロ監督の映画『シェイプ・オブ・ウォーター』をはじめ、作品賞候補は映画ファンをうならせる力作ぞろい。全9作のそれぞれどこがスゴイのか、先取りでご紹介します。(編集部・市川遥)

まるでデル・トロ版『美女と野獣』!日陰で生きる者たちへの愛をつづった『シェイプ・オブ・ウォーター』

 『パンズ・ラビリンス』『パシフィック・リム』などで知られるメキシコの鬼才ギレルモ・デル・トロ監督が、モンスター愛と映画愛たっぷりに大人版『美女と野獣』を撮ったら……と言えば本作の雰囲気をつかみやすいはず。舞台は冷戦下のアメリカ。口がきけない女性イライザが清掃員として働く極秘研究所に、アマゾンで崇められていたという魚人が運び込まれ、二つの孤独な魂が惹かれ合うことになります。

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『シェイプ・オブ・ウォーター』
Fox Searchlight Pictures / Photofest / ゲッティ イメージズ

スゴイのはココ!
デル・トロワールドがさく裂!→ダークなおとぎ話と、ミュージカルスリラー、そして不寛容の空気が満ちた時代性まで盛り込みながら、どこで切り取っても見まごうことなき“奇妙で美しいデル・トロ映画”として最高の完成度です。1ミリ単位でこだわり抜いたという魚人のビジュアルから、そんな魚人とイライザの、ディズニー映画では絶対あり得ないようなラブシーンまで、デル・トロらしさ全開です。監督自身アウトサイダーを自称しているだけあって、日陰で生きるキャラクターたちへの視線は常に愛にあふれています。

クラシカルなサリー・ホーキンスの美しさ!→イライザのよき理解者で同僚役のオクタヴィア・スペンサー(『ドリーム』)、ゲイの隣人役のリチャード・ジェンキンス(『扉をたたく人』)、気品あふれる無垢な魚人を動きで表現したダグ・ジョーンズと魅力的なキャストの中でも、特筆すべきなのが、口がきけないイライザ役のサリー・ホーキンス(『パディントン』シリーズ)です。軽やかな立ち居振る舞いで、瞬き一つとってもハリウッド黄金期のサイレント映画から飛び出して来たかのようなクラシカルな美しさ。デル・トロ監督は本作を「ミュージカル」とも表現していましたが、サリーはまさにその身体を使って音楽を奏でているようでした。

『シェイプ・オブ・ウォーター』監督・脚本:ギレルモ・デル・トロ 出演:サリー・ホーキンス、リチャード・ジェンキンス、オクタヴィア・スペンサー 配給:20世紀フォックス映画 上映時間:2時間4分 日本公開:3月1日
第90回アカデミー賞最多13部門ノミネート:作品賞、監督賞、主演女優賞、助演男優賞、助演女優賞、脚本賞、撮影賞、美術賞、音響編集賞、録音賞、編集賞、作曲賞、衣装デザイン賞

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辛辣な語り口の中から浮かび上がる、希望に満ちたメッセージに号泣『スリー・ビルボード』

 『ヒットマンズ・レクイエム』『セブン・サイコパス』のマーティン・マクドナー監督の新作はサスペンスのようで、その実、容赦なく胸を打つ珠玉の人間ドラマ。レイプ殺人事件の捜査に全く進展が見られないことに業を煮やした被害者の母親が、警察署長を非難する3枚の巨大看板を出したことで、小さな町の人間関係に波紋が広がっていきます。

『スリー・ビルボード』
(C) 2017 Twentieth Century Fox

スゴイのはココ!
先が読めない!今の時代にぴったりなメッセージ→マクドナー監督が執筆したオリジナル脚本は先が読めず、予想外の方向へと導かれ、思わぬところで思わぬ人物がぶつかる展開は最後まで目が離せません。「人は変われるし、怒りの連鎖は止められる」という希望に満ちたメッセージを、思いっきりダークな笑いとバイオレンスで辛辣に描き出すなんて、ちょっとセンスが良すぎませんか! 監督賞ノミネートを逃したことが信じられないくらいのマクドナー監督のらつ腕ぶりです。

サム・ロックウェル良すぎ!演技合戦がすごい!→本作の鑑賞後は誰もが「サム・ロックウェル、めっちゃイイ」と思うはず。声がでかくて頭の悪い、粗野な警官をまさかの繊細さで演じたサム。彼がどんどんいい顔になっていくさまに目頭が熱くなります。共感を拒み、触れるものを皆傷つけるかのような今までにないヒロイン・ミルドレット役のフランシス・マクドーマンド、人情派署長役のウディ・ハレルソン(『ゾンビランド』)、そしてミルドレットに看板を売る広告屋役のケイレブ・ランドリー・ジョーンズ(『X-MEN:ファースト・ジェネレーション』)も最高。それぞれが最大限のものを出した演技合戦は圧巻です。

スリー・ビルボード』監督・脚本:マーティン・マクドナー 出演:フランシス・マクドーマンド、ウディ・ハレルソン、サム・ロックウェル 配給:20世紀フォックス映画 上映時間:1時間56分 日本公開:2月1日
第90回アカデミー賞6部門7ノミネート:作品賞、主演女優賞、助演男優賞×2、脚本賞、編集賞、作曲賞

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あの頃を思い出す!大人への一歩を踏み出した少女の鮮やかな青春映画『レディ・バード』

 カリフォルニア州サクラメントでの抑圧された暮らしにうんざりし、大学進学とともに自由闊達な東海岸への脱出をもくろむ17歳の少女レディ・バードの青春物語。23歳にして3度のオスカーノミネートを誇る主演のシアーシャ・ローナンをはじめ、『君の名前で僕を呼んで』のティモシー・シャラメ、『スリー・ビルボード』のルーカス・ヘッジズら若き才能が集結しています。

『レディ・バード』
Merie Wallace, courtesy of A24

スゴイのはココ!
女性たちの才気爆発!極上の青春ドラマ→窮屈に思える学校生活に家族、きらめく初恋と手痛い失敗、そしてかけがえのない友情……本作で描かれるのはそのみずみずしさまで青春そのもの。迷い、それでも突き進む17歳のヒロインを体現したシアーシャはさすがの演技力で、本作で単独監督デビューを果たし脚本も手掛けた『20センチュリー・ウーマン』の女優グレタ・ガーウィグ、母親役のローリー・メトカーフ(『トイ・ストーリー』シリーズ)と女性たちの才気が爆発しています。サクラメントで育った監督自身の経験を基にしているため、その土地までが一人の登場人物のようで、これが後々効いてくる展開が憎い!

これがリアルな母娘の関係!→母娘の複雑な絆で結ばれた関係を、こんなに鮮やかに描き出したのは本作が初めてと言ってもいいのではないでしょうか? 喧嘩しながらショッピングをしていたのに、かわいい服を見つけたらそんなことも忘れて意気投合するシーンの間の取り方など、母娘の日常をのぞき見しているかのようなリアルさ。正反対のようで頑固なところがそっくりな母娘が、不器用に互いを想う姿は涙なしでは観られません。

レディ・バード』監督・脚本:グレタ・ガーウィグ 出演:シアーシャ・ローナン、ローリー・メトカーフ、ルーカス・ヘッジズ、ティモシー・シャラメ 配給:東宝東和 上映時間:1時間34分 日本公開:6月
第90回アカデミー賞5部門ノミネート:作品賞、監督賞、主演女優賞、助演女優賞、脚本賞

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激変したゲイリー・オールドマンの熱い名スピーチ!『ウィンストン・チャーチル/ヒトラーから世界を救った男』

 『ダンケルク』を英国政府サイド、『英国王のスピーチ』を時の首相であるチャーチル側から描いたアナザーストーリーとしても興味深く観られる本作。第二次世界大戦初期に前任者の辞職により妥協案的に首相に選ばれたチャーチル。ナチスがヨーロッパに侵攻、イギリス軍は劣勢を極め、内閣よりヒトラーとの和平会談を迫られるチャーチルが孤立無援状態でプレッシャーをかけられる中、いかにして難局を乗り越えていったかを、『プライドと偏見』のジョー・ライト監督が力強く活写しました。

『ウィンストン・チャーチル/ヒトラーから世界を救った男』
(C) 2017 Focus Features LLC. All Rights Reserved.

スゴイのはココ!
薄毛&二重あご!ゲイリー・オールドマンを変身させた日本人アーティスト→素顔はチャーチルとは似ても似つかないゲイリー・オールドマンを、特殊メイクで薄毛&二重あごの特徴的なビジュアルに変えたのは、日本人特殊メイクアーティストの辻一弘。ゲイリーが、辻に直々にオファーして彼がメイクを担当することが出演の条件だったというほどで、まさに二人三脚で作り上げたチャーチルといえます。チャーチルに似せるだけでなく、それを通してゲイリーが演技できるようにしなければならないという難題を、辻は見事に解決! ゲイリーの名演をアシストした完璧な仕事ぶりは映画のクオリティーに大きく貢献しており、それはエンドロールでの辻のクレジットのされ方にも表れています。

声、話し方、表情、動きまでチャーチルに成り切り!→徹底的なリサーチによってチャーチルをチャーチルたらしめる全ての要素を自分のものにしたゲイリーは、妻役のクリスティン・スコット・トーマスをして「彼は撮影初日から完全にチャーチルに成り切っていて、撮影中に“ゲイリー”に会うことは一度もなかったわ(笑)」と言わしめるほど。チャーチルの有名なスピーチは『ダンケルク』でも使われていましたが、ゲイリーが繰り出す本人バージョンは迫力が段違い! 言葉が持つ力をまざまざと感じさせられる、指折りの名シーンとなっています。

ウィンストン・チャーチル/ヒトラーから世界を救った男』監督:ジョー・ライト 出演:ゲイリー・オールドマン、クリスティン・スコット・トーマス、リリー・ジェームズ、ベン・メンデルソーン 配給:ビターズ・エンド / パルコ 上映時間:2時間5分 日本公開:3月30日
第90回アカデミー賞6部門ノミネート:作品賞、主演男優賞、撮影賞、美術賞、衣装デザイン賞、メイク・ヘアスタイリング賞

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