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ベネチア映画祭イチオシ映画!『セッション』監督ミュージカルから人食いSFまで!

今週のクローズアップ

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 カンヌ、ベルリンと並ぶ世界三大映画祭の一つベネチア国際映画祭が現地時間8月31日~9月10日に行われた。アカデミー賞の前哨戦ともされる本映画祭だけに、話題となった作品はこれから映画界をにぎわせること間違いなし。そんな中から選りすぐったイチオシ作品をご紹介!(編集部・石神恵美子)

『セッション』監督によって現代ミュージカルの名作が誕生!

LA LA LAND
エマ&ライアンが踊る! - (C)2016 Summit Entertainment, LLC. All Rights Reserved.
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『ラ・ラ・ランド(原題) / La La Land』

 一流のジャズドラマーを目指す青年と彼をスパルタ指導する鬼教官を描いた『セッション』で話題をかっさらった若手のデイミアン・チャゼル監督が、またしてもすごい映画を作り上げた。ロサンゼルスを舞台に、スターになるのを夢見る女優の卵・ミアと、才能がありながらも場末のバーで演奏するジャズピアニストのセバスチャンが出会い、恋と夢の狭間で揺れ動くさまを描く。今回、エマ・ストーンライアン・ゴズリングを主演に迎え、選んだジャンルが衰退しゆくミュージカルというのもミソ。というのも、劇中で廃れていくジャズとどう向き合うかというセバスチャンの姿とまさしく重なるからだ。そして見事にチャゼル監督はその挑戦に成功したと言っていいだろう。現代ミュージカルの名作がここに誕生した。

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夢を追う者同士、惹かれ合う2人… - (C)2016 Summit Entertainment, LLC. All Rights Reserved.

 音楽家を志していたチャゼル監督だけあって、もちろん音楽と映像の親和性は抜群。開始早々、ロサンゼルスのうんざりするような交通渋滞が、魔法にかかったかのように素敵なパフォーマンスの場に早変わりするさまには感嘆する。(ベネチアの会場ではこのシーンが終わっただけで拍手喝采)

 そして、チャゼル監督の映画オタクっぷりも炸裂。『理由なき反抗』『ウエスト・サイド物語』をはじめ、往年の映画作品へのオマージュがふんだんで、それが鼻につくこともなく心を奪われるのは、チャゼル監督を筆頭に作り手が一体となってこの映画をつくることを楽しんでいるのが伝わってくるからだろう。バンドのライブパフォーマンスを観ているかのような、わくわくの一体感の中に引き込まれていく。それもそのはず、チャゼル監督は「音楽がない部分でも音楽を感じられるように。エマとは歌っているように聞こえる話し方のパターンについて一緒に考えたよ」と裏話を明かす。音楽を奏でるように映画を撮る監督がこれまでにいただろうか。本映画祭ディレクターが「新ジャンルの幕開け」と評したのも納得。

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夕暮れにこだわったそうで背景はいつも美しい - (C)2016 Summit Entertainment, LLC. All Rights Reserved.

 また、色彩・衣装など視覚的に優れているとストーリーがおざなりになってしまう作品も多いが、本作に限ってはシンプルなストーリーラインを選んでいるだけに、恋が動き出すときの高揚感といい、夢へと一歩近づくごとに大事なものを見失っていくような不安感といい、登場人物への共感度も高い。そして最後には、切ないエンディングが胸を打つ。本映画祭では、エマが最優秀女優賞を受賞、その後行われたトロント国際映画祭では観客賞を受賞しており、アカデミー賞のレースを牽引することは間違いない。

『ラ・ラ・ランド(原題)』は2017年2月TOHOシネマズみゆき座他全国公開

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謎の知的生命体がやってきても戦わない!内なる宇宙を描く神秘的SF

メッセージ
エイミーの繊細な演技は必見

『メッセージ』(原題:Arrival)

 『ブレードランナー』続編の監督ドゥニ・ヴィルヌーヴによる本作は、映像化不可能と言われていたアメリカ人作家テッド・チャンによる短編小説「あなたの人生の物語」を映画化したもの。突如地上に巨大な球体型宇宙船が降り立った……。謎の知的生命体とコミュニケーションをはかるために 軍に雇われた言語学者のルイーズ(エイミー・アダムス)は、彼らの特異な言語体系に触れたことにより、人生に影響が及んでいくのを体験する。

メッセージ
日本にも上陸決定!日本語版ポスタービジュアル

 昨今、アクションの過激さを増すばかりのSF映画とは、明らかに一線を画す本作。何せ宇宙船がやってきたと聞いただけで、『インデペンデンス・デイ』のように強力な兵器をもって相手との死闘を繰り広げるような作品を期待していると、拍子抜けするのは確実。それは、本作が視点の転換がストーリーの軸になっている優れた原作ありきの作品だからだ。外に向かっての宇宙ではなく、内に向かっての宇宙を描いている。

 私たちが当たり前に言語を使っているように、謎の知的生命体も独自の言語を持ち、それが英語・日本語・中国語といった共同体レベルの違いによって分かれているのではなく、言語という概念すら私たちが想像するようなものでなかったとしたら……。人間の小さな脳が広大な宇宙に収まりきらないような事象を理解しようとするさまこそ、私たちの存在や意識の奥深さと不思議さを突きつける。そしてルイーズが彼らの“言語”を理解し始め、私たち人間のよりどころとしていた秩序が、たちまち崩壊していくさまには恍惚感すら漂う。という具合に、かなり内省的である題材をこうして映画化したというだけでも、まずはヴィルヌーヴ監督の勇敢さを称えたい。そしてそのビジュアルが、洗練されているなら、なおさらだ。

メッセージ
主人公とチームを組む物理学者を演じるのはジェレミー・レナー!

 さらに主人公を演じたエイミーが素晴らしい。何せ大事なことは、ほとんど彼女の内側で起こるために、彼女の演技力がこの作品の良し悪しを決めると言っても過言ではない。後半では彼女のクローズアップがスクリーンを占めることになるが、そんな中でも繊細なパフォーマンスをしっかり成し遂げている。また、言語学者にして、娘を持つ母親だったことも、温かみのある雰囲気をまとうエイミーにはぴったり。派手なアクションをするわけでも、セックスアピールを強調するわけでもなく、ただ女性として母親として、その佇まいで力強さを見せることができるヒロインはめずらしい。主人公の設定といい、なんてことのなかった日常が神秘的な意味合いを帯びてくるあたりは、『ゼロ・グラビティ』と共通するところもある。

 また、ヴィルヌーヴ監督との度重なるタッグで知られる作曲家ヨハン・ヨハンソンの音楽が、登場人物の少ない本作でまるで一つの人格を持っているかのように、この世界観を構築するのに大きく貢献している。内なる宇宙が広がっていくのを、主人公を通して体感する、じわりじわりと余韻の残るSFだ。

映画『メッセージ』は2017年5月TOHOシネマズ新宿ほか全国公開

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>次のページではトム・フォードの新作&人食いSFをご紹介!

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