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今夜『バケモノの子』放送!細田守ワールドをひもとく5つのキーワード

『バケモノの子』より
『バケモノの子』より - (C)2015 THE BOY AND THE BEAST FILM PARTNERS

 国内外で受賞を重ね、その動向が世界中から注目を浴びている細田守監督。最新作『竜とそばかすの姫』(7月16日公開)の公開を記念し、金曜ロードショー枠(日本テレビ系、毎週金曜夜9時~)では7月2日から3週連続で細田作品を放送。先週の『おおかみこどもの雨と雪』に続き、本日(9日)『バケモノの子』が放送される(夜9時~11時19分)。時代を敏感に読み取りながら、普遍的な人々の物語を描き多くの共感を呼んでいる細田作品。これまでの作品を振り返りながら、その世界観を紐解くキーワードをピックアップしてみた。(構成・文:神武団四郎)

【写真】佐藤健の竜役も話題!最新作『竜とそばかすの姫』場面写真

家族

『サマーウォーズ』(C)2009 SUMMERWARS FILM PARTNERS

 細田作品でまず思い浮かぶのが家族。『おおかみこどもの雨と雪』(2012)では、愛し合っていた“おおかみおとこ”(大沢たかお)の死を受け都会を離れた花(宮崎あおい)が、彼との間に生まれた雪(少女期:黒木華)と雨(少年期:西井幸人)と名付けた二人の子供と過ごす姿が描かれた。成長していく子供たちと向き合う日々を通じて、花も母親として成長する。一方、父を知らない雨は山で、生きるために大切なことを教わる“先生”と出会う。自身にとって父親代わりとなった“先生”の跡を継ぐ決意をした息子と向き合った時の花の姿が胸を打つ。

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 一方、在りし日の日本の家族を描いたのが『サマーウォーズ』(2009)だ。天才的な数学力を持ちながらも内気な性格の高校二年生・小磯健二(神木隆之介)が、憧れの先輩・夏希(桜庭ななみ)に頼まれ、フィアンセのふりをして、彼女の曾祖母にあたる陣内家16代目当主・栄(富司純子)宅へ。栄の誕生日を祝うため、27人の大家族が集合する。家族の温もりを知らない健二を通し、やかましくて面倒だけど、温かくて居心地のよい大家族の姿が描かれる。何気ない言動の中で、個々のキャラクターを描き分ける“さばき方”も見ものだ。

『バケモノの子』(C)2015 THE BOY AND THE BEAST FILM PARTNERS

 細田作品最大のヒットとなった『バケモノの子』(2015)は、孤独な人間の少年が、縁もゆかりもないどころか種すら違うバケモノの熊徹(役所広司)に、九太(少年期:宮崎あおい/青年期:染谷将太)と名付けられ、父子のような絆を育む物語。『サマーウォーズ』でも栄が夫の隠し子・侘助(斎藤歩)を養子にしたり、健二が家族同様に陣内家に迎えられる姿が描かれていたが、それを突き詰めたのが九太と熊徹の関係ともいえる。「生みの親より育ての親」というだけでなく、“生みの親”との繋がりも大切にすることで、多様化するいまの時代の家族というものに一つの答えを提示した。『竜とそばかすの姫』も親子の物語だという細田監督だが、今度はどんな家族の形を見せてくれるのか。

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時間

 筒井康隆のSF小説に基づく『時をかける少女』(2006)は、同じ時間を繰り返す少女・真琴(仲里依紗)のストーリーだったが、それ以降も時間は細田作品の中でさまざまな形で描かれてきた。『サマーウォーズ』では代々続いてきた家系。インターネット上の仮想世界OZでの大事件に巻き込まれた陣内家では、次男坊の万助(永井一郎)が「陣内家は代々どんなときにも旗揚げてきたんだぞ」と息巻き、戦国時代の先祖に思いを馳せる。過去から未来へとつながっていく家族の姿は、4歳児くんちゃん(上白石萌歌)一家の物語『未来のミライ』(2018)で、より鮮明に描かれた。また小学生になる前から詫助を思い続ける夏希を通し、その思いの強さも表わされている。

 『バケモノの子』は、九太が熊徹と実の父(長塚圭史)と重ねた時間の違いでそれぞれの絆を描き、『おおかみこどもの雨と雪』では時の流れで変わるものと変わらないものを教える。そんな細田作品の時間に共通する特徴が、映画の中の出来事がキャラクターの人生の始まりでしかないこと。「……しましたとさ、めでたしめでたし」で終わるのではなく、ラストシーンが、未来に続く彼らの物語のスタート地点になっている。常に未来に向かうポジティブな姿勢が観る者を勇気づけるのだ。

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人でないもの

『バケモノの子』(C)2015 THE BOY AND THE BEAST FILM PARTNERS

 人ではないキャラクターを通して、大切なことを語るのも細田作品らしさ。『おおかみこどもの雨と雪』で花が愛したのは、人ではなくおおかみおとこだった。絶滅したニホンオオカミの末裔だという彼は、現代社会で失われた自然や野生の象徴。感情のコントロールがうまくできず、時に本能のまま行動する幼児期や不安定な思春期の姿も、おおかみとして描かれた。

 『バケモノの子』に登場するバケモノは、別世界の生き物。ただし空を飛ぶわけでも火を吹くわけでもなく、顔が獣であったり毛深いなど見た目を除けば暮らしぶりを含め人間とあまり変わらない。そうしたことが、九太の視点を通して描かれる。『サマーウォーズ』は、アバターという自分の分身となって、世界を混乱に陥れる悪と戦う人々の物語である。引きこもりがちな佳主馬(谷村美月)のアバターは、格闘ネットゲームの世界的チャンピオンで、電脳世界では「格闘王キングカズマ」として活躍。つまり「こうありたい自分」の姿。おおかみもバケモノも、メタファーとして使われているが、彼らが人と交流する姿はアニメーションならではの表現だ。

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『竜とそばかすの姫』(C) 2021 スタジオ地図

 なお、アバターは『竜とそばかすの姫』の重要なキーワード。母の死をきっかけに歌うことができなくなっていた高校生のすずが、巨大インターネットの仮想世界<U>に<As(アズ)>と呼ばれる自分の分身・歌姫「ベル」として参加することから物語が始まる。

現実と異世界

『バケモノの子』(C)2015 THE BOY AND THE BEAST FILM PARTNERS

 『バケモノの子』で、バケモノたちが暮らしているのは、渋谷の“隙間”とつながった別世界・渋天街(じゅうてんがい)。この世界で戦士として成長した九太はやがて人間界にも出入りし、二つの世界を行き来しながら大切なものを見つけ出す。どちらかを選ぶのではなく、精神と肉体、文事と武事のように、九太が大人になるためにはどちらも必要ということだ。

 『おおかみこどもの雨と雪』の舞台は現実の世界だが、山奥にある生き物たちのすみかとして、もう一つの世界が描かれる。目に見える境界線はないが、人が足を踏み入れない隔絶されたその場所を、弟の雨は自分が生きるべき場として選択する。一方、姉の雪は寮のある学校に進むため山間の家を後にした。花たちの家は、人間社会とそうではない世界の境界線にあったのだ。

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『竜とそばかすの姫』(C) 2021 スタジオ地図

 『サマーウォーズ』の“事件”の舞台は、インターネット上の仮想世界OZの中。そこは単なる仮想空間ではなく、コミュニティや社会インフラなど行政機能まで統合されている。現実世界とは表裏一体で、OZを通して社会の仕組みが見えるようになっている。ネット世界という設定は『竜とそばかす姫』の50億人以上が集う超巨大インターネット仮想世界<U>にも共通するが、『サマーウォーズ』は12年も前の作品。PCや通信端末のハードやソフトウエアが格段に向上し、通信も3Gから5Gへと進化する現在とは、人とテクノロジーの関わりも違っているはず。果たして<U>は、どんな世界なのか。

夏と自然

『サマーウォーズ』(C)2009 SUMMERWARS FILM PARTNERS

 『サマーウォーズ』をはじめ、細田作品で多く描かれる夏。行動する(させられる)キャラクターたちの躍動感を表すのにふさわしい季節だ。とりわけ印象的なのが、入道雲。真っ青な空に浮かぶ大きな雲は、激しい雨や嵐をも呼ぶ存在で、波瀾万丈な細田作品にぴったりだ。『時をかける少女』以来、そのポスタービジュアルは常に入道雲を前に立つ子供たちが描かれてきた。

『竜とそばかすの姫』(C) 2021 スタジオ地図

 そんな夏の物語にぴったりなロケーションを探し出し、実景に基づく情景作りを大切にするのも細田作品の魅力の一つ。『サマーウォーズ』は長野県、『おおかみこどもの雨と雪』は細田監督の故郷である富山県の自然が描かれた。『竜とそばかすの姫』では高知県でロケハン(リモート)し、川を中心に美しい情景を再現。なお、同作のポスタービジュアルの背景は、入道雲ではなく星空や宇宙を思わせる星々。細田作品がついに新たな境地へと踏みだすのか、そのあたりにも注目したい。

 来週7月16日の金曜ロードショーでは、『サマーウォーズ』を放送する(夜9時~10時54分)。

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