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ただの物忘れか、盗難か…心理的虐待の臨床用語を生んだ名作サスペンス

『ガス燈』(1944年)
『ガス燈』(1944年) - MGM / Photofest / Getty Images

 映画のカテゴリーでサスペンスは質の高い作品の宝庫だが、1944年にアメリカで公開されたイングリッド・バーグマンがアカデミー主演女優賞を受賞した『ガス燈』はその中でも傑出した名作サスペンス映画だ。

 主人公が受ける心理的虐待は、後にこの映画にちなみガスライティングという名称で呼ばれ汎用の言葉として広く知れ渡っている。この映画の演出がすばらしいのは、妻が次々と物忘れをし、それをしっかりものの夫がフォローしているのだが、次第に妻は自分の認知機能の衰えを正体不明の恐怖として大きく膨らませていくところだ。

 次々と身の回りの物がなくなっていく理由は、家に何ものかが潜んで持ち出しているのか、妻が物忘れを自分ではコントロール出来なくなってきているのか……物語はサスペンスのセオリーどおり結末の読めない展開で観客を引き付け放さない。

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 監督はオードリー・ヘプバーンの『マイ・フェア・レディ』を撮ったジョージ・キューカーだけあって女性の繊細な心理を描くことにおいて当時のハリウッドでは傑出していた。次第に正気を失っていくイングリッド・バーグマン演じる妻ポーラの焦燥感を丁寧に描いていく。バーグマンの演技もすばらしく、混乱と不安を時には苦悶(くもん)の表情を浮かべ見事に表現している。夫を演じたシャルル・ボワイエは1967年の『007 カジノ・ロワイヤル』でキーマンとなるキャラクター、ルブランを演じたフランスの俳優で、本作での彼の抑えた演技はバーグマンの恐怖をより引き立て、バーグマンとルブランの二人がこの作品を後世に語り継がれる名作に押し上げたと言える。(編集部:下村麻美)

製作年:1944(103分)モノクロ
製作国:アメリカ
監督:ジョージ・キューカー
出演:シャルル・ボワイエ、イングリッド・バーグマン、アンジェラ・ランズベリ

映画『ガス燈』は10月2日(金)23:00~金曜レイトショーにて無料配信

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